Boramimi Special / 2002年9月号特集
特集
ページタイトル 写真『紙風船』
6年前、重い障害を持つ若者たちが、人形劇を通して自立した人生を歩もうと立ち上がった。
「紙風船」という名のもとに、たくさんの手に支えられ、ゆっくり、高く飛び続けてきた。
障害を乗り越え、障害を生かす、ひたむきで果敢な姿勢。彼らのチャレンジ精神が、見るものを引きつけ、勇気づける。
全国津々浦々にメッセージを運ぶ車いすの人形劇団が、名古屋を拠点に元気に活躍している。


可能な限りの機能を生かして、人形に命を吹き込む

 ♪ ぼちぼち行こうよー 僕たちは 焦ってみたって同じこと 失敗したってくよくよするなー ♪
明るい歌声に乗せて、紙風船が掌から、ふうわり、ふうわりと上がる。それを目で追いながら、楽しいリズムに体が揺れてくる。

 歌声が遠のくと、車いすの二人が登場。車いすの前につけた大きなかばの人形を、セリフに合わせて、頭や手足に結んだ糸で操る。頭をわずかに左右に振って小さな動きも表現する。人形に命が吹き込まれていく。次々とユニークな動物の人形が、個性豊かに登場してきて、笑いを誘う。車いすの介助者は黒子になって、小道具を手渡したり、タイミングよく場面展開をしたり、時には笑顔をふりまいて、舞台を盛り上げる。

 劇団の代表作『ボーちゃん』は、のんびり屋の主人公かばのボーちゃんが、電気屋さん、コックさん、郵便屋さんなどいろいろな仕事に好奇心旺盛に挑戦するものの、失敗ばかりを繰り返す。でも「まあ、いっかー。くよくよしないで、ぼちぼち行こう!」と明るくめげないというストーリーだ。これまで、40回以上の公演を重ねてきた自信作だ。

 人形劇団「紙風船」は、県立港養護学校の卒業生たちで、1996年に結成。メンバーの入れ替えもあったが、現在は5人。肢体不自由など重度の障害を持ちながら、可能な限りの機能を生かして人形を操り、公演活動に取り組んでいる。国内の人形劇フェスティバルでは常連だ。北から南まで声がかかれば飛んでいき、年に12回ぐらいの公演を精力的にこなす。

写真

出発点は「喜んでもらえることをしたい」

 劇団の誕生は、メンバーがまだ在学中に、放課後を豊かに過ごそうと放課後クラブをつくり、バーベキューなどレクリエーションを楽しんでいるうちに、「人に喜んでもらえることをしよう」という声が上がったのが発端だ。そこで人形劇をすすめ、指揮にあたったのが、養護学校教諭の南寿樹先生だ。軽度の障害を持つ先輩の劇団がすでに活動しており、その指導にもついていた。

 「重度の障害を持つ生徒たちに本当にできるのか、周囲の不安は大きかった。でも以前フランスの実践で、手は不自由だが、糸を口にくわえて操る人形の活動を見たことがあった。まあなんとかなる、とにかくやってみよう」と呼びかけた。南先生は、学生時代から人形劇に関わり、人形劇セラピー協会の設立メンバーとして、アートセラピーの普及にも取り組んできた豊かな経験を持つ。「当初はプロと言う言葉に戸惑いはありましたが、これが私たちの自立の姿だと確認してきた。人形劇の練習などもできる施設をつくろうという夢を抱いてきました。その夢がこの秋に実現します」と、文化活動を主体とした全国でもめずらしい通所施設の誕生に格別の思いを寄せる。

 もう一人、南先生とともに、プロとして劇団を育ててきたのが、日本人形劇セラピー協会のメンバーで、名古屋市で人形作家としてアトリエを構える、おばらしげるさんだ。「家に閉じこもりがちな障害者が、人形を持つことで自分を解放できる。そして社会といろいろな接点を持てるようになる。仲間ができ、出会いも生まれる。その手伝いをしていきたいと思った」と劇団の応援団として名乗りをあげ、人形の製作に力を貸す。「ひとり一人障害が違うから、棒の長さ、握りなど人形の構造も違う。この子達の運動能力を生かしてつくる、特別なことではない、ただそれだけのことです。車いすを中心にして、前に人形、後ろに介添え者がいる。三位一体となる、そのコントロールが難しいんです」。おばらさんは演出指導にも声を上げる。
ページの上へ▲

1

Boramimi Special NEXT>> HOME