Boramimi Special 2004.03

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仲間とともに、世界中の人権を守る。−名古屋のアムネスティグループ“わや”の活動−

 平和ボケといわれる日本でも、「人権」という言葉はよく耳にする。ただ、その言葉の重みを身をもって実感する機会はめったにない。世界を見渡してみるとどうだろう。思想が違うだけで投獄されたり、人種が違うだけで殺されたり、理由もなく不当な暴力や拷問を受けたりと、耳を疑ってしまうような人権侵害にあっている人たちは数知れない。
 主に「手紙書き」という手段でこうした人権侵害をなくすための運動を展開するアムネスティは、世界中に支部をもち会員100万人を擁する名だたるNGO団体である。日本では、社団法人であるアムネスティ・インターナショナルの中核を担っているのが、10人前後の仲間が集って活動するグループの存在。世界に約5,300、日本全国に120あるアムネスティグループのひとつ、名古屋の“わや”を取材した。
個性のるつぼ、“わや“グループ。

 市民団体には、必ずその団体固有の空気やカラーというものがあり、それはそのままメンバーの個性や属性、あるいは掲げられているミッションの内容を物語っていることが多い。そんなことを、改めて確認させられるグループに出会った。設立から13年の歴史をもち、グループ名を名古屋弁からとったという名古屋のアムネスティグループ“わや”だ。

 ある月の第4日曜日、地下鉄「東別院」駅に程近い名古屋市女性会館で行われた例会に同席した。“わや”の登録メンバーは全員で9名、この日はそのうちの5名が出席していた。「国連の世界人権宣言がすべて正しく守られ、実現される世界を目指す活動」を展開するアムネスティのおごそかなミッションがそうさせるのか、ボランティア活動にありがちな「なんとなく」の動機や思い入れとは違う確固としたものが、“わや”のメンバーの中にはあるように見えた。この日初めて参加した女性を囲んでメンバーの自己紹介が始まったが、話を聞くうちに、その印象は確信に変わった。

 設立当初からのメンバーで定時制高校教員の中島正人さんには、中学時代の友人にスパイ容疑で軍事政権時代の韓国当局に逮捕され6年もの間獄中生活を強いられた在日朝鮮人がいる。当時署名やアピール行為等の救済活動を実行できなかった悔しさが、自分をアムネスティへの活動に向かわせることになったという。

 法医学研究者の水谷洋子さんは、同僚から誘われアムネスティ某グループの入門講座に参加したのがきっかけで、以来この活動にはまった。現在は名古屋NGOセンターの理事も務め、国際分野の他団体とは太いパイプを持つ。

 運営担当の野澤俊一さんは、70年代安保闘争で不当逮捕されるという苦い記憶がある。雑誌の広告でアムネスティを知り、30年ぶりに権力と対峙する活動に目覚めた。ほかにも、学生時代から環境問題に興味があり現在は出版社で編集の仕事をする林圭吾さん、チベット文化やチベットの人権問題に興味を持ったことからアムネスティの活動を始めた高久道子さんなど、“わや”のグループには、ユニークな肩書きや経歴をもつ面々が顔をそろえる。経験年数はもちろん、動機や興味の分野など中身はばらばらだが、そのどれもが「鮮明」であることだけは共通している。

 「でもね」、と野澤さんが言う。「私たちの活動って、いたって地味なんですよ。要するに、こうしてひたすら手紙を書くことが主な活動だからね」。


アムネスティのメイン活動でもある手紙書き

アムネスティのメイン活動でもある手紙書き

一年に投函する手紙は、300通。

 しかし、その地味な活動であるところの「手紙書き」の積み重ねが、アムネスティの活動の大きな柱であり、「良心の囚人」(思想的、政治的、人種的な理由等で囚われている人)の救済をはじめ人権侵害をめぐる数々の偉業を成し遂げてきた原点なのだ。手紙書きには、大きく分けて二つある。一つはアクションファイルと呼ばれ、継続的にある一つの良心の囚人ケースを扱い、毎月その国の政府などに向けて抗議や釈放要請などの手紙を送るものだ。“わや”では、現在1年以上にわたって中国人のケースを扱い、国家主席ほか政府高官に宛てて手紙を送っている。

 もう一つは、UA(緊急行動)と呼ばれ、アムネスティの本部が、世界中のどこかで間もなく死刑が執行される、囚人の健康状態が著しく悪化しているなどの情報をキャッチし、緊急に会員が総力を挙げて抗議の手紙を送るもの。こちらは、毎月本部から数十にのぼるケースの情報が寄せられてきて、各グループでは数件をピックアップして取り組む仕組みになっている。“わや”ではメンバーの関心の高い中東圏に重点を置いてケースを選んでいる。

 この日も、早速手紙書きの作業が始まった。担当のメンバーが作成した文章を全員に回覧し、それぞれが目を通す。そして手分けをして、署名したり、切手を貼ったり、封筒に宛名を書いていく。確かに地味で根気のいる作業だが、メンバーの顔は真剣そのもの。様子を伺っていると、丁寧な文字で署名している水谷さんが、説明してくれた。

 「実際に政府などが読んでくれているかどうかはわかりませんよ。でも、相手に対して、その良心の囚人の存在をほかの国の人間も知っているんですよ、とアピールするだけでも意味はあると思うんです。何百通、何千通もの手紙が世界中から届くということそれ自体でも相手には相当なプレッシャーを与えるはずなんです」

 およそ半時間後に仕上がった手紙は、アクションファイルのケースで4通、UA(緊急行動)のケースで19通のあわせて23通。“わや”だけでも1年で約300通の手紙を投函することになるという。気の遠くなる確率ではあるが、1年に数件は政府当局などから直接返信が届けられる。このようなことが全世界のグループで同時に行われていることを想像してみると、この活動の底知れない威力を感じる。

去年12月6日に行われた「イマジンパレード」

去年12月6日に行われた「イマジンパレード」

イベントやパレードの企画も目白押し。

 “わや”の活動は、手紙書きにはとどまらない。メンバーそれぞれのフットワークが軽いのもこのグループの特徴で、イベント、勉強会、コンサートへの参加や企画立案は、常に数本が同時に動いているという状態だ。大がかりなところでは、アムネスティが企画するスピーキングツアーの名古屋担当を担っているのが“わや“だ。これは、チェチェン、チベット、ペルーなどの人権侵害をこうむった当事者が全国を回って講演するもので、毎年行われている注目度の高いイベントだ。最近では、2年前にチベットの女性を招いて愛知県中小企業センターを会場に開催し、約40人を集めた。さらに、去年の暮れ12月6日(土)には、「世界人権デー」にあわせて自由と平和のメッセージを伝える「イマジンパレード」を打ち上げた。“わや”の例会にも顔をだしているミャンマー(ビルマ)の若い民主運動家ココラットさんから提案された企画で、初めて他団体にも呼びかけた記念すべきイベントとなった。当日はあいにくの雨にもかかわらず、ミャンマー(ビルマ)の難民グループや市内の他のアムネスティグループなど10前後の団体が集結、約70人が栄の久屋大通の周りを行進し、デモを行った。

 “わや”の毎月の例会では、手紙書きのあと、このようなイベントや企画についての相談や打ち合わせが引きもきらない。この日も、名古屋NGOセンターから小学校の教材に使う資料の作成依頼の報告と担当決め、各種セミナーや講演会の紹介、コンサート企画の提案などが次々に各メンバーから持ちかけられる。飛び込み情報も目白押しで、その情報量には舌を巻く。

 「マンネリ化しがちな活動の中でも、いろんな企画を通して当事者や世界中の人々と触れ合うことができるし、マスコミにはあがってこない生の情報を知ることができる。これも、アムネスティの醍醐味ですね。国際人権問題なんて職場ではそれほどもり上がらない話だから、ここに来るとついつい熱が入ってしまうんです。同じ目的を持つグループで活動するメリットですよ」

 “わや”設立にもかかわった中島さんは、そう語る。10年以上この活動に打ち込んできたメンバーの言葉に、アムネスティ、そして“わや”の活動の魅力が集約されている。



アムネスティとは・・・

世界人権宣言が守られる社会の実現をめざし、世界中の人権侵害をなくすため、国境を越えて声を上げ続けている国際的な市民運動。国連やヨーロッパ評議会との協議資格を持つNGOであると同時に、世界140ヵ国100万人のボランティア会員で構成される不偏不党の人権団体で、調査や活動に対して、いかなる政府からも財政的な援助は受けていない。

【会員種類】

アムネスティは、積極的な参加による支援から寄付などによる財政面での支援など、活動スタイルに応じてさまざまな会員制度があります。詳細は事務局にお問い合わせください。

◎個人会員(12,000円/年)
◎グループ会員(会費は各グループによって異なりますが、月額1,000円前後です)
◎賛助会員(一口10,000円/年)
◎アムネスティ・フレンズ(一口3,000円/年)
毎月送られてくる会員向けニュースレター 毎月送られてくる会員向けニュースレター


  Information

●社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本

ホームページ: http://www.amnesty.or.jp/
E-mail: info@amnesty.or.jp
■東京事務所:
〒101-0048 東京都千代田区神田司町2-7 小笠原ビル7F
TEL: 03-3518-6777 FAX: 03-3518-6778
■大阪事務所:
〒552-0021 大阪府大阪市港区築港2-8-24 piaNPO 509
TEL: 06-4395-1313 FAX: 06-4395-1314

●アムネスティ・インターナショナル日本第109グループ わや
・問合せ先: 久富(くとみ) TEL/FAX: 052-878-2877
・例会: 毎月第4日曜日/名古屋市女性会館 3F活動コーナー
     13:30〜17:00
・イベントのお知らせ: 3月28日、14:00〜「アムネスティ入門セミナー」 
              /伏見ライフプラザ12階 
※詳しいことは、お問い合わせください。

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