2006年6月号 ■特集■         ホームへバックナンバーへ   

オシャレで老人施設のお年寄りを元気に!

 「メイクセラピー」「化粧療法」という言葉が聞かれて久しい。化粧やオシャレは、単に外見をキレイにするだけではなく、自分の新しい魅力や可能性を発見できメンタル面で大きな効果があると言われ、医療福祉分野でも注目が集まってきている。
 このメイクの効果について8年前から注目し、老人施設などを定期的に訪問、メイクやハンドマッサージをすることでお年寄りの元気を引き出す活動をしているのが、特定非営利活動法人「ほほえみ生きがい支援」だ。

  年1回の誕生会は、メイクで主役に

 毎月第3日曜日は、西春日井郡春日町にある特別養護老人ホームで行われる誕生会に行く。誕生月の入居者にメイクをしてお祝いする。
 「お誕生日おめでとうございます」
 「お天気もいいし! 今日はよかったですね」
 「めぐり会えて、ありがとうございます」
 そんな会話が飛びかう。

 お年寄りが食事やお手洗いなどをすませて、自分の部屋から広間に降りてくるのが14時前後。イベントは14時半からなので、段取りよく進めなければならない。
 「化粧水つけますね。ヒヤッとしますけど、ごめんなさいね」「アイシャドウ、どれが好きですか」
 「お花見行かれましたか? では、この桜色にしてみますか」
 口紅をつけて完成。最初は遠慮がちだったお年寄りだが、鏡を見せるとぱあーっと笑顔が広がる。
 「○○さん、若いときキレイだったでしょー。男の人にモテたんじゃない?」
 準備した帽子を選んでもらう間も会話はとぎれない。メイクはあくまでもきっかけ、手段なのだ。「お年寄りは、自分から『キレイにして』とはおっしゃらない。だけど、だれでもいくつになっても、キレイになりたいものですよね。その気持ちを引き出していくのが、スキンシップとコミュニケーションなんです」と話すのは、島吉琴子さん。
 帽子をかぶって華やかになったお年寄りが、誕生月を迎えた今日の主役。メイクを希望しない男性などには、ハンドマッサージをサービスする。
  にこやかな会話と細心の注意

 短い時間で、テキパキとメイクを仕上げていく。なごやかでなにげない時間に見えるが、実は細心の注意が払われている。
 
最初に名前と歳を書いてもらうことで、お年寄りのだいたいの状態を把握する。色を決めてもらうに、手がかりをさがす。服装のどこかに紫があれば「紫のシャドウにしましょう。お好きですよね」と提案する。口紅は、パレットのたくさんの色を見せて、必ず好きな色を聞く。好きな色はよく似合うのだそうだ。
 「紅筆は必ず1人ずつ消毒するというのは鉄則ですね。また、頭を支えるのに、手は必ず首の後ろに。押さえつけたり、あごをつまみあげたりしないこと」。ほかにも、車椅子のお年寄りには必ず目線の高さを合わせる、車椅子を動かすときは「動かしますよ」と言うなど、高齢者や身障者に対する最低限の知識は必要だ。認知症のお年寄りなど、ときには紅筆を食べてしまったり、動いてアイシャドウ筆が目に入ったりすることもあるそう。リウマチを持っている人もいるので、ハンドマッサージひとつにしても相手の状況や体調を充分観察しながら行わなければならない。
 会話のなかでも、お年寄りのご機嫌を取るようなことはしない。「バックボーンがひとりひとり違う。敬語を使わなくてはいけない人もいれば、ラフにお話したほうが喜んでくれる人も。相手がどんな人か、いまどんな気持ちかを常に感じつつ、進めていかないといけません」。なかには食いついたり、つねったりする人も。「だけど、それが愛情表現だったりするんですよね」。

 家族や職員のことを忘れないこと

 「ご家族に、怒鳴られたこともありました。『そんなことしても、気休めなんじゃないか』と。家族がお年寄りを施設に預けるのには、いろんなご事情があります。押しつけをしない、というのが大原則」という。
 メイクボランティア暦5年以上の小崎香さんは、自宅での祖父の介護を3年間経験、最近亡くしたばかりだ。「ボランティアと実際の介護では、まったく気持ちがちがいました。ご家族や職員の方々の、日々のご苦労があるのを忘れないようにしたい」と語る。
「だけど、家族だけの長い介護で煮つまっているとき、ヘルパーさんやご近所など外から来ていただく方があると、家のなかが一気に明るく、風とおしよくなることも確か。助けてくれる人がいるんだ、とホッとする気持ちに、私自身何度助けられたことか。ボランティアはそういう役割があるとも思うので、日ごろがんばっていらっしゃるご家族や職員のためにも、笑顔で一生懸命やりたいと思うようになりました」。
 職員の方々に迷惑をかけないというのは最低限のマナーだ。たとえば、ファンデーションは、あとで職員が蒸しタオルでかんたんに拭きとれるくらいの薄さで。お年寄りの肌にもやさしく、一石二鳥だ。
「ボランティアは笑顔で会って、笑顔で別れられる。お年寄りと一番いい時間を共有させてもらえるのは、職員の方々のおかげなんですよ」と島吉さんも語る。「この方のお化粧、つぎお願いします」と、施設職員との連携も良好だ。
 スキンシップと継続が心を開く

 1998年に始めて、いまも月3回は定期的に施設を訪問し、活動している島吉さん。もともとメイクやエステに興味があったが、身障者だった妹さんのブティックを手伝っていたころのお客さんとの体験が、この活動を始めたきっかけだったそうだ。
  「週に何回も来てくれるのに仏頂面だったお客さんに、ある日『顔マッサージしてみませんか』と言ってみたら、黙ってウンとうなずいた。何回か洗顔やマッサージをしているうちに、『ウチで自分でもやってみたら、もっとキレイになるかなあ』と突然お話いただけるようになって。そのあとはどんどんキレイに明るくなっていった。のちに、ご自身がうつ病だったことなどをお聞きしたのですが、メイクやスキンシップってすごい効果があるんだなあ、と思ったんです」。
  「長い活動のなかで印象的だったのは、重い認知症だったご老人。最初のころはハンドマッサージをしていても、ほとんど反応がなかった。だけど、月1回何カ月か通ったある日、逆にこちらの手をマッサージしてくれたの! 意思表示できなかった方が、机に字を書くようになった例もあります。継続することで、信頼して心を開いてもらえるようになるんですよね」。
  訪問先の施設長も言う。「設立以来、毎月ずっと継続して来ていただいて、助かっています」。都合のいいときに、というのでなく、毎月休まず来るという継続が、お年寄りにとっても職員にとっても大事なのだろう。島吉さんは、たとえ活動参加が1人なっても休まずに施設を訪れるという。そんな地道な活動も、自身が充分にその大切さをわかっているからなのだ。

「お好きな色はどれですか」「私は、この地味なのがいいわ」…選ばれた色は、必ず似合うそうだ
車椅子のお年寄りの目線と同じ高さで話しかけるようにする。上から見下ろす感じにしないのが基本 「目に筆や粉が入ったりしないように、『アイメイクは瞬時に』がコツ。これだけはテクニックが要りますね」と島吉さん


☆ ☆ ☆
帽子までかぶってオシャレになったご自分をみていただく。「頭重くないですか」。気づかいも忘れない


☆ ☆ ☆
化粧前の顔を見ておいてもらい、完成後「いかがですか?」。鏡を向けると、どれどれ?とメガネを上げるおばあさん、そして思わず笑みがこぼれる。それを見る小崎さんも満面の笑顔 「ハンドマッサージさせていただいていいですか?」山田さんは会社員3年めで2回めの参加。「ボク、24歳なんです!」を武器に(?)、会話のキッカケをつかんでいく。「若いおにいちゃんにマッサージしてもらって、今日はいいわー」とうれしそうなご老人たち

月に1回の誕生日会では、誕生月の入居者が一番前でプレゼントをもらう。 メイクして帽子でオシャレした人が誕生月だとわかる。年に1回のお祝いに華を添える 「帽子は、どれにしましょう?」「黄色か赤かどちらがいいですか?」「…赤」。恥ずかしそうに黙っていたお年寄りが、そっと意思表示をしたのは、心を開いた証拠だ

  「100歳祝いは家族との記念写真」になるのが夢

 島吉さんは、妹さんであり副理事長でもある仁野さんと一緒に昨年訪問した、シンガポールの障害者施設のような福祉をめざしたい、と言う。そこでは、通所者が制作物を積極的に売って、健常者と同じように自立しようとする意志に満ちていた。「紹介のとき、施設の紹介はなく、通所者全員の名前が呼ばれたんですね。一人ひとりの個性が大事にされていて、健常者と障害者の区別がない。みんなが自由に描いて創ったスペシャルアートは、とても素晴らしかった!」
  「ほほえみ生きがい支援」のNPO法人としての今後の展開についても聞いてみた。
「自治体がやっている100歳表彰などを、私たちのメイクや記念撮影でお祝いできるようになるのが夢。お年寄りが欲しいのは、モノではなく、元気や想い出じゃないかしら。たくさんの地域で会員が増えて、自分たちの住む街で身近にお手伝いができるようになるといいですね。式典に出席が難しいような障害者の成人式の出張お祝いでもいい。メイクやオシャレで、明るくなってもらう。それを記念に残す。
  そして、本人や家族が喜んでくれているのを見て、私たちも元気をもらう。ボランティアって、結局“させていただいている”んですよ」。
この日施設を訪れた左から、
山田さん、島吉さん、小崎さん、柴田さん
特定非営利活動法人 
 ほほえみ生きがい支援


理事長 島吉 琴子 
西春日井郡春日町下之郷流51-2
TEL/FAX: 052ー400ー2581
E-mail: pk-23@nava21.ne.jp
会員20名
   (男性4名・女性16名:20代〜60代)
  老人施設にいるお年寄りの、元気を引き出すお手伝いをしませんか?
 メイクやハンドマッサージを通じてお年寄りとコミュニケーションします。
 まったくの未経験でも大歓迎。
 現在、北名古屋市近郊・名古屋市天白区・三重県名張市5施設へ定期的に訪問中。
 依頼があれば、ドレス着つけなど含め出張や記念撮影もしています。
 月1回や3カ月に1回の参加でもOK!
 正 会 員: 入会金3000円、会費3600円/年
 賛助会員: 会費3000円
                                            ホームへ > トップへ