「よいしょ、よいしょ」
とある休日の名古屋市内の某私立高校。多くの家族連れや若者たちが集うイベント会場の一角では、餅つきのリズムにあわせて、威勢の良い掛け声が響く。石うすと杵(きね)をあうんの呼吸で操るのは、長久手町「がんこおやじの会」の餅つき隊。すぐそばには、会ののぼりが6本たなびいている。
祭りシーズンの秋から春にかけて、活動のメインは自前の杵と臼を持参してのこの餅つき。東海豪雨の時には、炊き出しで100キロの餅をついたことも。普段は、もっぱらお膝元の長久手周辺での活動だが、それ以外の依頼でも「これは楽しいぞ!」という予感があれば、出張もいとわない。
 餅つきが始まって数分、周囲には次第に子どもや高校生たちの人だかりが。餅つき隊から手渡された杵を、子どもたちがかわるがわる振り下ろす。「いいぞ、その調子」「そうじゃない、こうやるんだ」。こわもてのおじさん達に威勢のいい声を掛けられると、危なっかしい手元もさまになってくる。次は、つきあがったお餅を丸める番。「ほら、やってみい」と、餅つき隊に促されて一人の高校生があつあつの餅を丸める。それにつられて子ども連れのお母さんも、女子高生も、若いカップルも自分の手で餅を丸めはじめる。ステンレスのバットには、きな粉、小豆あん、それに大根おろし。自分で丸めた餅をその中に浸して、いざ自分の口へ。あとは「美味しい」の大合唱だ。もちろん、餅つき隊のおじさんたちも子どもに負けじと、自分で丸めた餅を頬ばる。 おじさんたちは、決してホスト役ではない。こっち側もそっち側もない、見ている者を餅つきの輪に巻き込むのが一番の目的だ。
「とにかく気に入ったことしかしない。小言が多い。お酒が大好き。僕らは、むかし町内に必ず一人はいて、子どもを叱り飛ばしていた、あのがんこおやじを目指しているんです。」
もちつき隊の脇で、「がんこおやじの会」の若きリーダー伊藤敬一さんは、涼しげな表情でそう話す。
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