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社会福祉法人 愛知たいようの杜 理事ゴジカラ村代表 吉田一平さん
道草をゆるせる心のあるところ。
それがゴジカラ村という場所。

雑木林がうっそうと茂るデコボコ道をゆっくり進むと、聞こえてくるのは小川のせせらぎ、木々のざわめき、そして人々の笑い声。さらに進んで視界に飛び込んでくるのが、温かい風情を醸す山小屋風の建物たち。あたりを見渡すと、喫茶コーナーの看板や露天風呂の案内まである。「これが福祉施設?」思わず、そう呟きたくなる。
名古屋の東部、都市化の進んだ長久手町にある愛知たいようの杜は、昔ながらの風景の中に、2つの幼稚園のほか、特別養護老人ホーム、ケアハウスなどの老人福祉施設を次々に建設、設立以来県内きっての一大コミュニティを築きあげてきた。愛知たいようの杜全体に流れる“ゴジカラ村”というユニークな理念、またそこで展開される「時間銀行」という新しい取組みについて、代表の吉田一平さんに話をうかがった。

写真 吉田一平さん

  専門家じゃないから何でもできた。

― まずは、ゴジカラ村の意味を教えてください?

 

    ゴジカラ村は、たいようの杜全体を流れる理念なんです。僕はもともとサラリーマンだったからわかるんだけど、サラリーマンにとって、「5時まで」の時間を過ごす空間というのは、最短の距離を最高の効率で突き進むところでしょ。僕は、それとは逆のことをやりたかった。道草してもいい、それを許せる、全部OKの場所を作りたかったんです。だから、ここは「ゴジカラ(5時から)村」なんですよ。


― サラリーマンをされていたんですか?

 

    ええ、15年間ね。ちょうど昭和30年代の後半以降、日本が、豊かさや便利さを求めてひたすら走った時代と重なる時に、猛烈なサラリーマン生活を送りました。それはそれなりに楽しかったんだけど、こんなに急いで自分は一体どこに行くんだろう、社会はどこに行くんだろうと、ふとね、34、5才の時に立ち止まったわけなんです。無駄なもの、役に立たないもののなかに大切なものがあるんじゃないかと思い至って、それで会社を辞めました。しばらく消防団活動に打ち込んだんですけど、それはもうホントに楽しかった。自分が何かをすると「ありがとう」って言われるの。そんなの、仕事ではまずないことだから、とても新鮮でね。
 そして、もう一つ。長久手町も時代の後押しで区画整理が進んでね、雑木林が段々と消えて行くわけです。それを見ていて、長久手の雑木林を、子どもの頃から身近にあった自然をどうしても守りたかったんですよね。そして、できたらそこで、子どもたちをゆっくり遊ばせたかった。
  
写真 たいようの杜


 

―それでまず幼稚園を作ったのですか?

 

     そうです。僕が作りたかったのは、自然の中に一日いて、それだけで色々なものが学べる幼稚園。絵も歌もない、その代わりに、たとえばカタツムリの動きだけを見て一日過ごしても何も言われないような。子どもの頃にはそういうことが大切なのに、現代社会は子どもすらも「早く、早く」と急かす時代でしょ。それを仲間や家族に話したら、「じゃあ、そんな場所を作ってよ」。じゃあ、作るかって。その流れで、老人施設も作っていったんです。作る前には、老人ホームも、幼稚園も色々見て回りましたよ。でも、どれもこれもコンクリートの建物で、会社みたいだった。時間に縛られて、管理されて、子どもも職員も制服着て。僕はもう、そんなものは作りたくなかったんですよ。


―でも、超えなきゃならないハードルもありましたよね?

 

     もちろんありました。でも、なかったかな。僕は、老人福祉に関しても幼児教育に関しても、ずぶの素人。何も知らないということは、裏を返せば、何でもできるという強みになった。たまたま土地はあって、その他のことは、銀行にしても、建物の設計士にしても、とにかく自分の夢を熱く語って、紙に書き綴って、相手を口説きましたね。人に押しつけられたものじゃなくて、自分のやりたいと思った事だから頑張るしかない。絶対にくじけない。ビールがどこででも飲めるようにしたことも、露天風呂を作ったのも、全部、僕のやりたいこと。逆に、専門的なことは、人に頼むしかない。僕は福祉の資格が何もないから、「お願いします」ってひたすら人に頭を下げるだけでした。


  時間銀行は100年後に成果が出ればいい。

―20年間の人々とのふれあいを通して、どんなことを感じますか?

 

    今は自由を楽しめない人が多いって感じますね。そういう訓練を受けてこなかったから当たり前かもしれないけれど。ここでも、指示を欲しがる職員がいますが、僕は、目の前にいる老人の中に指示があるでしょって思う。別に難しい事を勉強しろとは言わない。目の前にいる老人が、 どうすれば楽しいのか、快適なのかを考えて欲しい。もっと、自由に自分の発想を持って欲しいですね。
 その点、子どもの発想は自由なんだよね。彼らと一緒に遊ぶとね、人間のあるべき姿がわかるんですよ。大人の行動にはすべて理由があるけど、子どもは全身で「今」を楽しむでしょ。今を楽しめる人の人生は豊かだし、今を楽しめない人は、それこそ、他から与えられた役割がなくなった時に、抜け殻のようになってしまう。園児のお母さんたちに、子どもの人生を長いスタンスで考えた時に、いい学校、いい就職だけを目標にしていいのかって問いをよく投げかけています。これからは老後も長い。将来、自分の子どもが抜け殻になるような育て方をしてはいけないって。そのためには、まずお母さんたち自身が、楽しいことを見つけて、子どもたちの今を楽しむ能力を奪わないようにしないといけないんだけど。


―最後に、ゴジカラ村の時間銀行について教えてください?

 

     数年前に、主に主婦のボランティアを対象に、一番動きの遅い人と一緒に行動するという講座を開いたんです。やってみて気付いたのは、みんな、仕事をきちっとやる能力はあるけど、一番遅い人に自分の動きを合わせるせる能力はないってこと。そこで時間銀行の発想がでてきたんです。人の能力には差があるけれど、時間だけは同じ。同じ時間のなかで自分のできること、やって欲しいことを時間券を使って交換する、それが認め合える仕組みを作ろうって考えたんです。たくさんやる人も、少しやる人も同じ。早くやる人も、ゆっくりやる人も、みんなOK。そして、まず、資格も何ももたない子どもが一番とっつきやすいだろうということで、幼稚園での取組みを最初に始めたんです。
     僕がこだわった雑木林って、いろんな種類の木が共存していて、いわばどれも未完成でしょ。僕は、人の暮らしも未完成でいいと思うんです。完成を目指した結果、効率が最優先されて、できない者、遅い者が許されない社会が出来上がった。今の世の中ってだから、辛いんだよ。みんなOKでいい。そういう世の中を、時間銀行を通して実現したいんです。ただね、現代社会の価値観を180度ひっくり返す訳だから、すぐにどうなるわけでもないことはわかっています。成果は、30年後、50年後、100年後に、出ればいいんですよ(笑)。
  

ゴジカラ村の時間銀行とは
 「たくさんやれる人はたくさんやればいいし、ゆっくりやる人はゆっくりやればいい」。そんな合い言葉のもと、去年4月からゴジカラ村内で本格スタートした時間銀行。登録カードに「してあげられること」と「してもら写真 もりのようちえんいたいこと」を書き込み、その際10枚の時間券を無料で受け取る。1枚の時間券で有効な「してあげられること」「してもらいたいこと」は1回、時間の目安は1時間だが、人や内容によって1日掛かりでも、半日でもOK。事務局を通すか、電話で直接相手に依頼する。

 時間銀行が最初に始まった「もりのようちえん」では、園児やその家族を中心に登録者の数は約200件。「仮面ライダーの歌がうたえる」「子どもの弁当つくります」「自転車で一緒に走ってあげる」等、さまざまな内容が寄せられている。担写真 ゴジカラ村の時間銀行当者の濱口美亜先生は言う。「大人よりも子どものほうが肩肘を張らない分だけ、でてくる発想が豊かですね。時間銀行によって、『自分には何ができるんだろう』と家族一緒に考える機会ができたら、時間銀行は十分意義のある取組みだと思っています」。さらに続ける。「この取組みは、まだ始まったばかり。ルールは最初から固定させず、これから自然な形でできてけいけばいいと思っています」。
 濱田先生は、時間銀行の仕組みがわかりやすく伝えようと、絵本も制作。濱田先生の体験を通した物語仕立ての絵本で、個性的な筆使いとイラストが好評だ。

  
information
 社会福祉法人 愛知たいようの杜
〒480ー1131  愛知郡長久手町大字長湫字根嶽29ー4
●法人本部   TEL :(0561)64ー5151 FAX :(0561)64ー5672
●もりのようちえん  TEL:0561-63-6366 FAX :(0561)62ー4785

 

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