2002年11月号 特集
タイトル画像「広がる、進化する  人、まち、社会をつなぐ地域通貨」

今、地域通貨が一大ブームといわれるほどの広がりをみせています。 人と人とのつながりを育むコミュニティづくりに、商店街やまちを元気にするまちづくりの起爆剤にと、 全国各地に次々と誕生しています。 名古屋市内でも昨年から、先駆的に実践している地域通貨があります。 運営にあたるNPO「環境市民・東海」の取り組みから、話題の『地域通貨』を探ります。

お金のシステムを問い直す
「今から3年前、知人からオーストラリアの地域通貨の話を聞いたのがきっかけ。法定通貨に頼らないで生きている人がいる。自分の住む地域で循環するお金で、何とか生活が成り立っている。これはおもしろいなと」と話すのは、名古屋市内初の地域通貨『なーも』を発行する環境市民・東海代表の向井征二さん。
地域通貨はそもそも1930年代の世界大恐慌の際、欧米を中心に、市民が自活していく道として広まったシステムだ。
実は日本でも戦前、炭鉱の町などで多くの地域通貨が発行され、大流行した。でも国の権威によって一斉に弾圧され、なくなってしまった」と向井さん。その誕生の歴史と、今の日本の経済状況をみれば、地域通貨に注目が集まってきたことは当然のことと言えるかもしれない。
一般に地域通貨が広く知られることになったきっかけは、3年前にNHKで放送された「エンデの遺言」という番組だ。「モモ」などの作品で知られる作家ミヒャエル・エンデ氏が自ら企画を提案して製作された。これは、現代社会が抱える環境・貧困・戦争・精神の荒廃といったさまざまな問題の根源には、現代の貨幣システムのあり方が絡んでいて、そんなお金が持つ問題を明らかにしようとするもので、その中で世界の地域通貨の事例が紹介された。お金が投資の対象として商品化している現状に対し、人間の労働を公平に価値づけるために使うお金本来のシステムを取り戻そうという提唱は、大きな反響を呼んだ。
LETS東海研究会の写真 月に1回会員が集まって、地域通貨について勉強会をしたあと、持ち寄った品物を出し合って交換会がはじまる。
「ふっと気づくと『なーも』が生活必需品になっていた、なんて時代が来るといいなと思います」と会員の伊藤鷹代さん。

善意の循環が原点

地域通貨は今、世界で2500以上、国内でも140種類以上あるとされている。その目的と方法は千差万別。一般に共通なことは、ある限定された地域だけでしか使えないお金であること、貸し借りをしても利子がつかないこと、市民の手で作り出すことができるお金であることが挙げられる。
環境市民・東海では、LETS東海研究会という運営母体をつくり、2001年3月に地域通貨システムをスタートさせた。『なーも』と命名した独自の通貨を使い、登録した会員同士で物やサービスを交換する。会員は現在約70名。月に1回「なーも交換会」を開催、自家製の無農薬野菜やお菓子、日用品などいろいろな品物を持ち寄ってやりとりする。さらに会員は、自分が提供したいサービスと提供してほしいサービスをメニューリストに掲載。「ベビーシッター」「買物代行」「ワープロ入力」など登録されたさまざまなサービスのやりとりに『なーも』を利用できる。なかにはユニークなメニューもあって楽しい。
会員の伊藤鷹代さんは、「『近畿地方のお寺のガイドをします』というサービスを利用したことがあります。3人でツアーを組んで、案内をしてもらいました。『ヨガの指導』も受けたことがありますよ」伊藤さん自身は得意の料理を生かして『季節の家庭料理を教えます』というサービスを掲載しているそうだ。会員同士が手助けや善意をキャッチボールしながら、コミュニケーションと信頼関係を築き、交流を育んでいく。
「日本には江戸時代から“結”や“もやい”といった助け合いの組織があった。私たちの取り組みは小さなコミュニティにおける善意の循環。だからこれを受け入れる土壌は日本にあって、日本人に合ったシステム」と向井さんは言う。

地域通貨から社会通貨へ

人と人とのつながりを強め、新しいコミュニティを生む地域通貨。貨幣システムを問い直すという本来の目的に目を向けるなら、できるだけ多くの人が参加し、法定通貨と肩を並べる通貨になることが求められている。 「ここ1年で、地域通貨は社会通貨へと進化している。これは世界的な動き。私たちも地域通貨の原点を大切にしつつ、社会通貨としてのシステムを模索しているところです」。向井さんは今、コミュニティウェイと呼ばれるシステムに着目している。地域通貨を個人のやりとりに加え、民間企業やNPOなどの幅広い主体が参加できるものだ。このモデルを雛型にしたのが、東京は渋谷の街で実践するアースデーマネーだ。
例えば『渋谷の街からゴミをなくそう』というプロジェクトがある。個人(あるいは団体)は、寄付をしたり、あるゴミ清掃の活動に参加することでプロジェクトに貢献することができ、その証としてアースデーマネー「r」が発行される。そしてこのプロジェクトに賛同する町のお店で、代金の一部として「r」を使用できる。カフェで通常500円のコーヒーが400円と100rになるというように。「rという紙きれが渋谷の街を回ることで、街が活性化する。参加者全員にメリットがある洗練したシステム」と向井さん。『なーも』を商店やタクシーで利用していきたいというのが会の目標でもある。
地域通貨は、アイデア次第でまちや社会を変えるパワーを発揮する。今年8月に第1回地域通貨国際会議が開かれた北海道栗山町では、環境配慮の取り組みを支援する地域通貨を発行している。住民同士のサービスのやりとりに使う地域通貨を、商店街で買い物をする時にレジ袋を使わなかったり、エコロジー商品を購入することでためたスタンプと交換できる。環境の視点をプラスすれば、地球にやさしい生活が実現できる一例だ。
自分たちのまちのために何ができるだろう?社会のために何をすべきだろう?まちが抱える課題、社会が抱える課題に目を向け、取り組んでいく姿勢が、地域通貨の可能性を広げていく。

Information
「なーも」の写真
コミュニティチェック『なーも』
チェックは3種類。100Nの価値は、1時間の労働対価と同等とし、おおむね現在の時間給で1000円程度としている。使用するときは、裏面に使用者が使用年月日とサインを入れて、相手に渡す。そのチェックの使用サインが10回に達したら運営事務局に返却し同額の新しいチェックと交換。有効期限は使用者からもらった時点から6ヶ月。

『なーも』についてもっとくわしく知りたい方は ホームページへアクセス!

http://www.kankyoshimin.org/tokai/

●問合せ 環境市民・東海事務局
名古屋市東区葵1-25-1ニッシンビル630
TEL : 052-933-5380
E-mail : tokai@kankyoshimin.org
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