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自治体は、わたしたち市民が作るもの

「情報公開制度」を活かして政治参加

NPOと行政の協働が進み、両者が互いに歩み寄りを見せている一方で、「行政と緊張関係を持った組織も必要だ」と考えているNPOがある。行政の不正の追及・是正を目指す「名古屋市民オンブズマン」だ。今や全国に広がっている市民オンブズマンの活動は、「自治体は私たち市民が作るもの」ということを再認識させてくれる。


ボランティア団体とは少し違う。市民による「監視・是正組織」

 「オンブズマン」とはスウェーデン語で「代理人」を意味する。もともとは、国民の代理人として行政機関に対する苦情処理や行政活動の監視・告発などを行う職務につく人(公務員)のことを指し、「オンブズマン制度」は西欧を中心に普及してきた。一方、このような制度がほとんどなかった日本では、市民の立場から行政の不正行為を正し改善させようと、「市民オンブズマン」という市民団体が誕生した。
 市民一人ひとりが主権者であるという原点に戻ったこの市民オンブズマンの活動は、1980年に大阪で始まった。当時は、税金の無駄づかいや官僚の天下りといった政治腐敗が連日マスコミに大きく取り上げられ、政治や行政に対する国民の信頼が著しく低下した頃で、不当な行政を監視して国民の不満に応える必要性が高まっていたのだ。「市民オンブズマン」は、そうした事情を背景に「政治腐敗はむしろ国民自らの責任である」という想いを抱いた自発的な市民によって結成された。
 名古屋では1990年、「行政の不正を何とかしたい」という弁護士、税理士が集まって「名古屋市民オンブズマン」を設立した。さらに1994年には、当時まだ全国6都市にしかなかった各地の市民オンブズマン団体が集まって「全国市民オンブズマン連絡会議」が作られ、現在は約80もの団体が参加する全国的なネットワークになっている。

会合の様子1 毎週火曜日の夜に行われる、タイアップグループの会合の様子
会合の様子2


第一に調査、そしてマスコミにアピール。必要なら裁判へ

 赤字隠しで問題となった「名古屋デザイン博訴訟」から始まった「名古屋市民オンブズマン」の活動は、設立後しばらくは弁護士を中心とするものだった。しかし、もっと一般市民が参加できる組織を目指そうと、1995年、市民を交えた「タイアップグループ」が作られた。主婦や定年退職者、学生なども加わり、現在会員は約120名に増加。そのパワーは今や弁護士を上回るほどだという声もある。
 タイアップグループの会合は、毎週火曜日の夜に開かれる。「市民オンブズマン」の活動の原点はやはり調査。行政の不正を批判し行政を動かすためには、単なる「噂」だけでなく文書による証拠が必要となる。そこで、新聞記事の切り抜きや情報公開制度を用いて行政から入手した資料をもとに、情報交換や全国の事例分析をし、現在どんな不正があって、それに対して自分たちに何ができるかを話し合っていく。注目のネタがあれば、更なる調査に向けて役割分担し、不正を追及する十分な証拠が揃ったら、今度はマスコミを使ってアピールする。そして必要なら裁判を起こす、といったプロセスを踏む。
 不正に対する調査・分析と聞くと一見堅苦しい印象を受けるが、タイアップグループの会合は、とても自由で楽しい雰囲気だ。「会合に集まる人は、みんな何かに関心をもっている。一銭の得にもならないことでディスカッションし、その中でみんなが様々なことを楽しんでいる」と話すのは、「名古屋市民オンブズマン」の弁護士で、会合の進行役の新海さんだ。「名古屋市民オンブズマン」が設立された頃から活動を続けている新海さんは、「不正があれば市民は批判し、市民の批判を受けたら行政は改善する。そんな当たり前のことをしているだけですが、それを分かっていない人が多い」と指摘する。
新海さん 全国市民オンブズマン連絡会議事務局長の新海さん


市民一人ひとりが「オンブズマン」

 同じく事務局スタッフの1人で、約5年前から参加している内田さんは、「『行政の不正を何とかしてほしい』という電話がよく事務局にかかってきますが、私たちは相談を受けたり、代わりに訴訟を起こす団体ではありません。そもそも皆さん1人ひとりが市民オンブズマンなんです」と、市民オンブズマンへの正しい理解を呼びかける。さらに、「行政の不正に対してどういう手段をとったらよいのか分からない市民が多いのでしょうが、そういう人たちには不正を一緒に調べていく仲間になって欲しいです」と話す。
 まだまだ情報公開制度の存在を知る人は少なく、実際にそれを利用している人はごくわずかとも言える。しかし「市民オンブズマン」の活動は着実に行政を動かしているようだ。確かにこの10年で行政の不正は目立たなくなった。「しかし、本当に不正が無くなったわけではない。だからこそこの活動を続けている」と新海さん。「メンバーには『ボランティア』という意識は全くなく、自治体は自分たちのもの、自分たちのために自分たちにできることをやっている」。そんな想いが集まった活動のようだ。
 行政への監視を強めるということは、政治への積極的な参加にもつながる。「市民オンブズマン」の活動は、市民と行政のあり方を改めて教えてくれた。
   
内田さん 事務局スタッフの内田さん


インフォメーション

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