「ISC日本語の会」とは。

港区にある「国際留学生会館(International Student Center、以下ISC)」は、愛知県内の大学などで学ぶ留学生とその家族が100名ほど入居する、名古屋市の運営施設。地域の異文化交流の推進を目指し、ISCには「交流ボランティア」と「日本語ボランティア」の2種類のボランティア制度がある。その「日本語ボランティア」を担当するのが、週1回、外国人を対象に無料の日本語学習会を行っている「ISC日本語の会」だ。10年前に活動を始めて以来、多くの外国人がここで日本語を学んできた。現在も中国、ブラジル、アメリカ、ロシアなどから来た国籍も年齢も異なる約30人の生徒が、入門・初級・中級・上級クラスに分かれて日本語を学んでいる。日本語を教えるのは、現在11人いる日本語ボランティア。日本語教育の学習経験者から全くの初心者まで、“教えたい”という共通の想いを持って集まった人たちだ。

生徒数ゼロの危機を乗り越えて。
 授業は土曜日の午前10時に始まる。「毎回10時には生徒がきちんと席に揃っているので驚いています」と話すのは、入門クラスを担当する伊藤清香さん。今でこそ継続的に生徒が参加しているが、実は安定して授業が行えるようになったのは、ほんの数年前からだという。「私が活動を始めた8年前には、教室で2時間生徒を待ち続けたときもありました。それに現在のように、学期の終わりまで多くの生徒が止めずに通い続けていることも珍しかったんです」と振り返る。
写真:日本語学集会の様子 「ISC日本語の会」は当初、ISCに滞在する留学生とその家族を対象に日本語学習会を行う目的で始まった。しかし、留学生の中には日本語を学ぶ機会に恵まれている人もいて、なかなか生徒が集まらなかった。授業のシステムも現在とは異なり、レベルの違う生徒を同時に教えたり、文法と会話の授業に一貫性がなかったりと、生徒にとっては決して満足のいくものではなかったようだ。
「授業のシステムをもっと工夫しなければ」と、2年ほど前から、レベル別の担任制クラスにし、生徒の募集も広く行った。その結果、授業の質が上がり、今では逆に遠方から通ってくる生徒も増えた。「一時は無料だからかえって生徒もボランティアも続かないのではと考え、授業料をとることも考えましたが、今はそんな必要はなかったと思えます。お金を払っても来る人は来るし、来ない人は来ない。それよりも大切なのは、いかにいい授業をし、信頼関係を築くかということなんですね」。

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楽しめる雰囲気と頑張れる雰囲気
 授業の質が良いことに加え、「ISC日本語の会」の魅力は、何と言ってもその自由な雰囲気。上級クラスで現在5人の中国人を教えている代表の伊藤京子さんも、その自由さに惹かれて活動を続けてきた人のひとり。「『ISC日本語の会』にはマニュアルがなく、担当の教師が各自授業の内容を考えて、自由に行うことができます。“任される”ことで大変な面もありますが、自分のやりたいようにやれることは教える側にとって楽しいこと。自由な雰囲気の授業は生徒にも喜ばれます」と話す。そんな上級クラスの授業は、先生と生徒の会話が中心。単なるおしゃべりではなく、ポイントごとに先生の説明が入る、楽しく充実した授業だ。
 一方入門クラスでは、日本に来てまだ数ヶ月という4人の生徒が学んでおり、授業は主に英語で行われる。担当の伊藤清香さんは、学生の頃から日本語教育に興味があり、日本国内や海外で日本語教育の勉強を続けてきた。「教えることが大好きなんです。生徒が本当に頑張っていて、彼らの日本語が上手になっていくのを見るとやる気が出ます」。生徒と先生が常に自分の力を磨き、授業の質全体を高める雰囲気がある。

共通の想いがあれば、交流は後からついてくる。
 日本語の勉強を通して生まれる交流も、やはり楽しみのひとつ。「日本に来て日本人の家に行く機会がないのは残念なこと。もっと日本の暮らしに触れてほしい」と、自宅でパーティを開いたり、生徒と観光に出かける先生もいる。これも、語学学校に比べて規制の少ないボランティアの魅力だとか。
 しかし「外国人と交流したい、日本人と交流したい、という目的だけで見学に来る人がいますが、そういう人たちは結局長続きしません」と、先生たちは口を揃えて言う。「“学びたい”“教えたい”という共通の気持ちがあってお互いを必要とし、自分も努力する人たちが集まっているから、一緒にいて楽しいんです。そしてこのような共通の想いがあれば、交流は自然に生まれるものです」。
人種や文化の違いを超えて人と人をつなぐものが、この共通の“何か”なのだろう。