2006年 2月号 ■特集■                       HOMEへバックナンバーへ 

ー 守山リス研究会 ー          
           
「どんな野生動物がいるの?どうして野生動物が少ないの?」
守山リス研究会会長の北山克己さんは、ホームステイで受け入れたさまざまな国の人を身近な山へ連れて行くたび、何度となくそう尋ねられた。
そして「野生動物が棲息していてこそ森で、棲息しない森は死んだ森ではないか」と気づかされ、野生動物と共存できない自然環境に疑問を抱いた。
かつて野生のニホンリスがいたという緑地公園と山で、棲息状況を調べ始めたのが15年前。森に入り、地道な調査・研究を積み重ね、現在、名古屋市近郊の3つのフィールドに宿る、貴重なニホンリスの命を守る。その活動を取材した。
50年、100年後の森の姿を描いて
  冬型の気圧配置が強まり、最高気温が8度を下回るようになった12月のとある土曜日、守山リス研究会(以下リス研)のフィールド活動に参加した。場所は、名古屋市守山区の最北端、市内最高峰(198m)の東谷山。麓には家族連れに人気の東谷山フルーツパークが広がり、休日には手軽な山登りや周辺に残る里山風景をたずねて散策にやってくる人も多い。
 午前9時30分、リス研会長の北山克己さんとメンバーの鬼頭孝信さん、そして守山区小幡北小学校5年生の子どもたち5人とフルーツパークの駐車場を出発。この日の目的は、リスの餌となるオニグルミの木の植樹とクルミの給餌活動だ。植樹の場所へ向かうと、そこは東海豪雨で土砂崩れのあった山の斜面。枯れた雑草が生い茂る中に、大人の背丈に満たないマツが10数本ぽつぽつ植わっている。
  「ここの抵抗性アカマツは3年前に植えたもの。植樹して根付くのは3割位かな。将来この斜面がマツ林になって、オニグルミの木が数本大きくなるのが理想の姿」と北山さんは斜面を見渡す。マツノザイセンチュウによる被害で全国的にマツ林が激減する中、マツ林が消滅した地域では、ニホンリスが目撃できなくなったとの報告もあるそうだ。リスは、マツボックリの中にある直径1〜2mmの小さな種子を食べる。リス1匹が1年間に必要な餌をマツボックリから摂るとすると、50年生のマツが、なんと360本以上も必要だという。もちろんマツボックリだけを食べるわけではなく、季節に応じて花や木の芽、葉、樹液、ドングリ、昆虫、キノコなども餌にしている。
今日植えるのは、もう一つの主要な食物源、オニグルミの苗木だ。「一人5本ずつ植えるぞー。植え方、見てて」と北山さん。鋤鍬で固い土を掘り起こしながら、20cm位の深さの穴を掘る。そこに枯葉を敷いてから苗を置いて土をかぶせる。最後に足でぎゅっぎゅっと踏み固めてから、根元を枯葉で覆う。
 へっぴり腰で力任せに鍬を振り始める子どもたちに、「垂直に鍬をおろして。もっと腰を落として」と北山さんがアドバイスすると、すぐにコツをつかむ子も。「うまいうまい、お百姓さんになれるぞ!」と励ます。初めて体験した子は、「疲れたけど、木植えるの、楽しい、楽しい」と笑顔を向けた。
  50年後、20mもの大木になったオニグルミの木に8000個近い実がなる。それは、リス1匹の1年分の食糧にあたる。50年後、100年後の姿を描いて、一本また一本と植えていく

大きく育った木を仰ぎ見るのは子どもたちの世代だ。

  大きく育った木を仰ぎ見るのは
     子どもたちの世代だ。
自然の営みに触れながら
目標の25本を植え終わると、1時間以上が経っていた。「じゃあ、山に入るよ。下りてきたらお昼ごはんにするから、がんばって行こう」。北山さんからクルミのごろごろ入った袋を渡され、いざ出発。山道には茶褐色の落ち葉が積もり、カサカサと踏みしめながらゆっくり上っていく。
 「リスだけでなく、ムササビ、鳥や昆虫など多種多様な生物が生きるためには、多種多様な樹木が必要。何百年に渡って生活・生産活動の場だった里山が、燃料革命で薪や炭など木の燃料から化石燃料へ変わったことで、管理放置されてしまった。人間の力で昔のような山を取り戻さないと、常緑の森になり、今いるリスや生物が棲めなくなってしまう」と北山さん。最近では、里山環境を再生しようと、各地で市民参加の保全活動も盛んになってきた。東谷山周辺はかつて大きな湖で、水辺に育つ貴重なシデコブシやモウセンゴケなど、200万年前の里山の宝物が残っているそうだ。
森の宝物を発見?!
 森の宝物を発見?!
子どもたちは時々、木の実や枝を拾ったり、珍しい植物を発見してはしゃがみこんで写真を撮ったり。初めて参加した子に、北山さんがどんぐりを食べるようにすすめる。おそるおそるかじると、「にがっ!」と顔をゆがめた。そんな寄り道を楽しみながら歩いていると、1台目の給餌台に到着。木の幹にしつらえた台座にカゴワナが置いてある。1週間前に入れたクルミ100個は空っぽだ。リスが自分で食物を確保できる環境が整うまで、今いるリスの数を減らさないために、15年前から1〜2週間に1回、クルミの給餌を続けている。今、年間4万個のオニグルミが必要なため、クルミの寄付を受け付ける一方、毎年秋には岐阜県の川沿いへクルミ狩りにも出かける。
  給餌台のある木の下に、半分に割れたクルミ殻が何個も落ちている。「かじり方でリスの成長がわかるんだよ」と北山さんがクルミを拾い上げると、給餌活動に参加したことのある子が「これは子ども、これは大人・・・」と一目で判別していく。小さなリス博士だ。
  カゴはリスを捕獲できる仕組みになっていて、これまでに3回捕獲調査を行った結果、東谷山には8〜10匹のリスが棲息していることがわかっている。捕獲したリスに発信機をつけ、その行動を調べるテレメトリー調査も始めており、今年はその技術修得のための合宿研修を計画中だ。またリスの餌としてのキノコ調査研修会も予定している。
  設置してある8台への給餌が終わると、体もあたたまって、樹間を吹きぬける風が心地いい。リス研では、ボーイスカウトや小中学校の子どもたちと給餌活動をしながら自然観察会を実施したり、年に4回、自由参加の観察会も開いている。ツリークライミングクラブから指導者を呼んで、木登り体験をしながら巣箱を設置することもある。
 「今はいろいろな知識や情報がインターネットで簡単に手に入る時代。でも自分の足で歩いて自然や野生動物と直接触れ合う体験は何物にも代えがたい。こういう経験をした子と、していない子では発想に大きな差がでてくると思う」と北山さん。帰り道、初めて参加した子が「来週もやる?また来ていい?」と声を弾ませて言った。
オニグルミはリスの大好物。食料が不足する冬の為に土の中に貯食することも。


オニグルミはリスの大好物。
食糧が不足する冬のために
土の中に貯食することも。
一歩一歩、息長く
 リス研は、東谷山の他、尾張旭市の森林公園、守山区の小幡緑地公園を舞台に、リスの調査・研究、環境保全、環境学習の3つの柱を掲げて活動を展開している。リスの棲みやすい環境づくりに向けて、科学的検証は欠かせないもので、そのデータは膨大な量にのぼる。
 「自然や野生動物について特別な知識もないまったくの素人だった」という北山さんは、最初、何の縁故もなかった元京大霊長類研究所の瀬戸口先生に指導を懇願して、仲間数人と棲息状況の調査を始めた。その後も地元有志や専門家のネットワークを広げながら、東谷山の植生調査、リスの巣の場所、活動時間、オニグルミの消費量の季節的変化の調査、また和歌山の友ケ島・鎌倉・岐阜・浜松の移入種タイワンリスの現地調査など、多岐にわたる緻密な調査に一つ一つ、地道に取り組んできた。
 「調べれば調べるほど課題がどんどん出てくる。だからおもしろい。リスやリスの環境に関わることなど、世界中の論文を読みあさります」。活動歴15年。尽きることのない探究心が、持久力の源だ。遠いゴールに向かって、息の長い活動は続く。
 
★アクティブ会員募集(会費制)!
野生動物に関心のある人、自然が好きな人、山歩きが好きな人、 
テレメ調査に興味のある人、観察会の指導をしたい人、等など・・・
    東谷山と森林公園での給餌活動
森で出会った生き物や季節の植物の様子など観察記録をつけながら、クルミの給餌活動をします。シャイなリスやオオタカに出会うチャンスも?!
★リス研の活動を支援するサポート会員も募集中。年会費は3千円で、リス研通信が届くほか各種イベント案内があり、観察会や植樹活動、クルミ狩りなどにも参加できます。
    東谷山でのテレメトリー調査
許可を得てリスを捕獲し、発信機を取り付けその行動を測定してデータを収集します。調査方法はリス研で指導します。
★身近で容易にオニグルミを入手できる環境の方、200個でも500個でも寄付をお願いします。送料は着払いで。メールで事前に情報(収集場所、量など)をご連絡ください。
    ●連絡先
      守山リス研究会 北山 克己
    TEL: 052-795-2616 
    E-mail:risuken@gctv.ne.jp
 URL: http://www.asahi-net.or.jp/~fb4m-iszk/risuken
守山リス研究会会長 北山克巳さん 守山リス研究会会長  
  北山 克己さん
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