特集 2006年9月号特集
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“一人ではできない”電動車椅子サッカーが教えてくれたこと
サッカーボールの絵サッカーボールの絵サッカーボールの絵

−P.S.C Sonic Lucifer-
 
「電動車椅子サッカー」
― その名のとおり、電動車椅子に乗って行うサッカーだ。陸上やバスケットボールなど、車椅子で行うスポーツの中でも、手動の車椅子を動かすことのできない人たちが楽しめる数少ないスポーツとして注目されてきている。『P.S.C. Sonic Lucifer』は、愛知県を拠点とする電動車椅子サッカーチーム。選手はわずか6名で、公式大会への出場資格はまだないながらも、地域に根ざした強いチームを目指して練習に励んでいる。

大会の様子1

ボールを使った練習風景
電動車椅子サッカーとは?
 体育館のバスケットコートを使用し、1チーム4名で試合を行う。車椅子の手元の操作レバーで自由自在に動き回ることができ、足元に取り付けた専用のバンパー(自動車のタイヤを半分に切ったもの)で、直径約50cmの大きなサッカーボールをコントロールし、ゴールを目指す。前後半各20分で行われ、延長戦、PK戦もある。車椅子の最高速度は、2名ずつ、時速6kmと時速4.5kmに設定される。キーパーとフィールドプレイヤーの区別はなく、戦術はチームによって異なる。

電動車椅子サッカーの歴史
 
アメリカやカナダなどで行われていた「パワーサッカー」をヒントに、1982年に大阪市で考案された。1989年に名古屋市でもチームが発足し、1991年、大阪チーム対名古屋チームの初の交流試合が行われた。その後、各地に続々とチームが誕生し、1995年に初の全国大会が開催。現在は、日本電動車椅子サッカー協会のもと、各地域のブロック連絡会ごとにチームが統括され、全国で約40チームが登録されている。ブロック予選や日本選手権などの公式大会(年に4回ほど)に加え、最近は海外チームとの試合も行われている。2007年には、初のワールドカップが日本で開催される。



楽しい」だけじゃない、電動車椅子サッカーの魅力  

  2002年3月、現代表の加藤さんと現メンバーの小川さんを含む4名によって、P.S.C. Sonic Luciferは結成された。当時、すでに別のチームで5年近くプレーし、公式戦への出場経験もあった加藤さんと小川さん。2人に「そもそも電動車椅子サッカーを始めたきっかけは?」と質問をすると、「サッカーが大好きだったから」と小川さん。一方、加藤さんは、「変な話ですが、ある日、亡くなった友人たちが夢に出てきて、『フラフラしてるなら電動車椅子サッカーでもやれ』と僕に説教したんです」と返答。電動車椅子サッカーに少し興味を持っていた加藤さんは、その友人たちの言葉に背中を押された。

  そんな2人のサッカー暦も、今では10年近くになる。長く続けていられるサッカーの魅力は、楽しいということだけではないようだ。「サッカーを続けて気づいたことは、サッカーも普段の生活も同じだということ。常に相手がいて、一人だけでは何もできない。どういうときに、相手にどんなこと(動き)をしてほしいか、自分はどう動けばいいか。そういうことを常に頭に描き、実践していかなくては、サッカーも、障害者の自立した生活も成り立たっていかない」。そう話す加藤さんに、小川さんも「サッカーを通して、一人では生きていけないということが実感できる」と共感する。  

 電動車椅子サッカーの練習には、選手の身の回りの介助をしたり、ボールを出したりするヘルパーが必要だ。また試合中も、キックイン(サッカーのスローインにあたる)の際にボールを押さえる人、転倒や電動車椅子の故障などに対処する人など、選手以外の人がいろいろな立場で関わる。「彼らのサポートなしでは何もできない」。電動車椅子サッカーをすることで、そんな感謝の気持ちが自然に生まれてくるようだ。


現在は6名で、より強いチームを目指す

 現在、P.S.C. Sonic Luciferの選手は、加藤さん、小川さんに、長瀬さん、伊藤さん、近藤秀貴・優也兄弟の4名を加えた計6名。伊藤さんと近藤兄弟はまだチームに入って1年。全くの初心者だった3人も少しずつ上達し、「もっと上手になりたい」と口をそろえる。「普段の生活の中にも、練習に生かせることはある。新しく入った3人にも、それを自分たちで見つけて欲しい」と、加藤さんも期待している。
 そして、「中部ブロックに参加して、強いチームと戦うこと」。これがチームの目下の目標だ。しかし、選手やスタッフの人数が少ない、資金がないという問題もある。地域にチーム数が少ないため、練習試合をするにも、三重県や長野県など遠くまで出向かなければならないことがある。「どうやって行くか」、まずそこから考えないといけないのが現状だ。遠征に同行してくれるボランティア
の仲間が増えるといい。そうチームは願っている。




作業ボードで動きの確認をしている
作業ボードで動きの確認


練習風景1 練習風景2
 練習風景


大会の様子2
 大会の様子


大会の様子3
  
体験会の様子1
体験会は「心のバリアフリー」の大切さに気づき合える瞬間でもある
体験会の様子2

体験会」も大切な活動。そのきっかけは


 一般にはまだあまり知られていない電動車椅子サッカー。少しでも多くの人にこのスポーツの楽しさを知ってもらうため、そして、障害者と健常者の区別なく、このスポーツを通していろいろな人と交流するため、P.S.C. Sonic Luciferは、「電動車椅子サッカー体験会」もひとつの大切な活動と考えている。これまでに5回ほど、小学校や高校、大学、専門学校で出張体験会を行い、プレーを披露したり、児童や学生たちに実際に電動車椅子に乗ってもらうなどして交流を深めた。
  加藤さんが、「競技」としてだけではなく、「レクリエーション」としての電動車椅子サッカーも大切にしているのには理由がある。前のチームにいた頃、カナダを訪問する機会があり、街中の普通のスポーツ施設の中で、健常者がプレーしているすぐそばで電動車椅子サッカーをやっている光景を見て、「日本では、障害者スポーツというと、身障者専用の施設の中で閉鎖的にやるイメージがあるのに、ここでは全然違う!日常の生活に、障害者や障害者スポーツが溶け込んでいる!」とカルチャーショックを受けた。
 また、横浜のあるチームの活動に参加したときは、一般の人を対象に電動車椅子サッカーの体験会を行っていることを知った。「こういう体験会を自分もやりたい」と、加藤さんは「障害者スポーツ」というものについて、今まで以上に考えるようになったという。


地域の人に親しまれるチームを目指す


 「体験会では、僕たちも大変良い経験をさせていただいた。これからも、機会があれば講演や体験会を行っていろいろな人に会いたい。僕たちの練習も見に来て欲しい。重度の障害があっても、これだけ自由に動ける、これだけボールをコントロールできるということを知って欲しい。健常者も障害者も一緒にやることは、自分たちにとっても楽しいし、それが本当の障害者スポーツだと思う」と語る加藤さん。
 取材の日、隣のコートではバスケットボールの練習が行われていた。「今日のように、バスケットボールをしている方たちがいて、その隣で僕たちが電動車椅子サッカーをやっている。そういうことが本当は当たり前なのだろうし、本来の意味でのバリアフリーだと思う」と話す。  電動車椅子サッカーは、チームメイトやスタッフ、地元の方たちとのコミュニケーションツールでもある。地域に根ざした、地域に親しまれる、強いチームを、P.S.C. Sonic Luciferは目指している。

代表の加藤さん
代表の加藤さん

information
★P.S.C. Sonic Luciferの仲間を募集しています!

電動車椅子サッカーは団体スポーツです。団体スポーツは、選手だけでは成り立ちません。選手を支えてくれるチームスタッフ、ボランティア、そして応援してくださるサポーターのみなさんの力があってこそ、成り立っていくスポーツです。選手だけではなく、みんながひとつになって「P.S.C. Sonic Lucifer」というチームになります。チームの仲間として、ともに電動車椅子サッカーというスポーツを楽しんでもらえたらと思っています。

◆「電動車椅子サッカー体験会」の出張先も  募集しています!

「P.S.C. Sonic Lucifer」のメンバーを呼んで、実際に「電動車椅子サッカー」を体験してみませんか?詳しくはお問い合わせください。
P.S.C. Sonic Lucifer

TEL:052-441-3577 / 090-3955-4772(加藤)
E-mail:noriyuki@clovernet.ne.jp
URL:http://www.hm2.aitai.ne.jp/~kenzi/soccer/top.htm
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