特集 2007年7月号 No.88 トップページへ>

退職後は、仲間と楽しむ「農ある暮らし」。

――NPO法人長久手楽楽ファーマーズの取り組み――


団塊の世代が大量退職を迎える中、定年退職した人たちの間で高い関心を集めているのが「農ある暮らし」。長久手町にあるNPO法人長久手楽楽ファーマーズは、家庭菜園の上をいく本格的な「農業」を通して、第二の人生を豊かに活動的に楽しもうと意気投合した人たちがつくった団体だ。土や汗にまみれながら、素朴に生き生きと活動を続けているシニア世代ファーマーズたちの取り組みを取材した。

「農ある暮らし」の実現へ。
 初夏の日差しが眩しいある日の朝、広大な農園の一角にあるビニールハウスでは、シニア世代の男性たち数名が黙々と作業に打ち込む。収穫したばかりの若草色をしたエンドウを秤にかけ、手際よく袋詰めしていく。流れ作業でみなさん非常に手際がいい。さっきまで畑にうわっていた野菜が、瞬く間に市場に乗る商品に様変わり。最後の仕上げに、青いラベルを目立つ位置に貼り付ける。「まじめにつくりました NPO法人楽楽ファーマーズ」の白抜き文字がドーンと目に飛び込んでくる。かなりのインパクトだ。


キャッチコピーにもこだわったラベル
野菜の袋つめ
みんなで手際よく出荷
キャッチコピーにもこだわったラベル
エンドウの出荷作業
みんなで手際よく出荷


「やっとコンスタントに出荷できるようになってきました。味にも自信ありますけど、ラベルがいいのか、生産者が個人ではなく団体というのがいいのか、うちのは早めに売れちゃうんです。いつも完売ですよ」と、会の代表をつとめる山田英樹さんは、仲間たちの出荷作業を見守りながら誇らしげに語る。
 NPO法人長久手楽楽ファーマーズ(以下ファーマーズ)は、定年退職後の生きがいを「農業」に求めた人たちが長久手町で開いている農学校を受講し、「一緒に本格的な農業をやりたい」と仲間11人で去年の1月に立ち上げた。3年前に農業経営基盤強化促進法が改正され、NPO法人や農業関係以外の法人でも農地を借りられることになった。山田さんらもNPO法人を取得し、長久手町を介して2,800m2の農地を借り受け活動を開始した。メンバーは少しずつ増え現在は40代から80代までの15人、定年した男性が中心だが女性も2人いる。月、水、金の週に3度、仲間とともに草取りや水遣り、さらには収穫作業に汗を流し、季節ならではの野菜を常時20種類以上育てている。
 ほとんどのメンバーが家庭菜園の経験者だが、本格的な露地栽培は初めての人ばかり。町の営農担当者や近所の農家の人などからアドバイスをもらったり、本やインターネットなどで情報収集するなど、それぞれのメンバーが手探りで努力を重ねてきた。
 


今日の出荷は春キャベツとエンドウ
さあいよいよ出荷だ
農場のみなさん
今日の出荷は春キャベツとエンドウ
さあいよいよ出荷だ
農場のみなさん

とれたて野菜、いよいよ出荷。
 普段は和やかのんびりムードの活動時間も、出荷準備に追われる日の朝は、そこはかとない緊張感が漂う。出荷の準備が整ったところで、いざ出発だ。今日の野菜は、春キャベツとエンドウ。メンバーの男性2人が野菜をワゴン車に載せ、町の農産物直売所「あぐりん村」まで車で5分の距離を走らせる。
「あぐりん村」は、今年4月にオープンしたばかり。町の温泉施設「ござらっせ」の隣にあり、週末ともなると町の内外 から多くの人たちが集まる。どの農産物にも、生産者の名前がしっかり表示されており、食の安全にこだわる人たちにとっては注目のスポットだ。ファーマーズでも、こうした市場ニーズに応え、低農薬、肥料は自家製堆肥を選ぶなど「自分自身がたべる安心・安全な野菜作り」にこだわっている。
 「あぐりん村」に到着すると、お店の人の案内で隙間のある売台に持ってきた野菜を次々に並べる。たちまち買い物客が集まってくる。ファーマーズの男性がすかさず「市価よりもお得でおいしいですよ。ほとんど農薬を使ってないからね」と笑顔で声をかけると、さっそく何人かの客がキャベツを手に取って買い物カゴに入れる。心を込めて一生懸命育てた野菜が売れていくのを見るのは、何よりうれしい。


ねぎを運ぶ
えんどう豆
「あぐりん村」での陳列作業
ねぎを運ぶ
えんどう豆
「あぐりん村」での陳列作業

 出荷が終わり農園に全員集合すると、今度はファーマーズの第2の楽しみが待っている。ビニールハウスでのお茶を飲みながらのミーティングだ。農業の話や活動予定などについてはもちろん、政治や経済、野球や家族の話などでも盛り上がる。時には、会員だけでなく近所の農家の人や町の担 当者などが集まり、地域の社交の場と化す。女性も若干いるが、男の井戸端会議といったところか。


 何より「楽しむ」ことを優先。
 新聞記者や商社マン、コンピューター技師、建築士などメンバーたちの元職業はさまざま。現役時代に培った貴重な技が農業以外のいろんなところで役に立っている。ファーマーズのホームページや商品に貼りつけるラベル、農機具小屋やビニールハウスなどはすべて会員たちの手作り。「みなさんには会社名は聞かないけど、現役時代に何をやっていたかは聞くんです。ここで生かしてもらうこともできるから。お金をかけないでプロの技を拝借できるなんて素晴らしいことでしょ」と話す代表山田さんは元商社マン。一つの団体にこれだけのつわものたちが揃っていれば、作業日を増やしたり販路を拡大して収益をもっと上げよう、といった意見も出てきそうだが・・・。


ビニールハウスでミーティング
ミーティングはもう一つの楽しみ


「そういう議論がないわけじゃありません。でも、あくまで私たちの活動は、自分たちが家庭で食べる分を作ること。そして、余った分を出荷することにしています。サラリーマン時代のように売上目標 を立てて日々作業に追われる、というのは団体の趣旨とは違うからね。金儲けのために農業をしたかったわけじゃないんです。何よりも、楽しむことが優先ですよ。そのためには無理しないこと。だから活動の出欠も自由なんですよ」と山田さん。そのあたりのポリシーはしっかりしているようだ。それも、仲間とともに「農ある暮らし」を楽しむ活動を長く続けていくための秘訣かもしれない。
 その一方で、野菜に冠せた楽楽ブランドの名は徐々に浸透し、団体もこうした活動の先駆けとして各方面からも注目を集めている。農業を始めてみたいという人からの問い合わせも増えてきた。「収穫祭を開いて、地域住民との交流も深めたいですね」と山田さん。当面は、これから夏にかけて収穫が始まる、トマト、きゅうり、ナスなど、夏野菜の栽培作業に忙しそうだ。

 

Information

INFORMATION
特定非営利活動法人
長久手楽楽ファーマーズ(略称:NRF)
<活動場所>
愛知県愛知郡長久手町前熊地区
●「愛知郡長久手町の東部」に位置します。

●リニモ(東部丘陵線)「芸大通り」駅より北東へ徒歩10分少々、長久手町立「東小学校」の隣です。

●看板「長久手楽楽ファーマーズ」が立っています。

<問合せ先>
【メールアドレス】rtypw530@ybb.ne.jp
(長久手楽楽ファーマーズ 山田)
【ホームページ】http://www.hm6.aitai.ne.jp/~hysweare/

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