ブラインドテニスと一般のテニスの主な違い
・日本視覚ハンディキャップテニス協会認定の、音が出るボールを使用
・コートはバドミントン用のコートを使用
・ネットの高さはショートテニスと同じ
・ラケットはジュニア用またはショートテニス用を使用
・視力によって2つにクラスが分けられ、ボールを打つまでのバウンド数が異なる
(視覚ゼロのB1クラスではアイマスクを使用) |
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視覚障害者のための工夫がたくさん
毎月1〜2回、名古屋市の天白スポーツセンターで練習を行っている『やっとかめ』。この日は午後からの練習に、障害者4名、ボランティア5名が集まった。グループができたのは12年前のこと。現在グループのリーダー的な存在である松山崇治さんが、ブラインドテニスの講座を一緒に受講した友人たちと、講座終了後もテニスを続けるために『やっとかめ』を作った。その後、メンバーに入れ替わりはあったものの、障害者5名を含む10名程のメンバーが、毎回練習に顔を出す。
練習は、まずコートの準備から始まる。バドミントン用のベースラインとその後方のセンターラインにロープをテープで貼り付け、突起のあるラインを作る。そのわずかな突起を頼りに、競技者は位置を把握するのだ。コートの準備を終えると、準備運動。ボランティアの大塚幸男さんの指示に合わせて、ストレッチ、素振りを行う。目の見えない人にとって、どんなストレッチなのか、どんな素振りなのかは大塚さんの言葉でしかイメージができない。そのため、大塚さんの指示はとてもわかりやすく丁寧。ときには、ボランティアが手をとって、姿勢を直す場面も。準備運動が終わると、全盲のクラス(B1)と弱視のクラス(B2)に分かれて、ボールを打つ練習に入る。ブラインドテニスの特徴は、何と言っても音の出るボールだ。スポンジボールの中に、視覚障害者用の卓球に使われているものと同じ、小さい鉛の粒が入ったピンポン玉が入っており、弾むとシャカシャカという音が出るようになっている。それを、B1クラスでは3バウンド以内に、B2クラスでは2バウンド以内に打ち返すというルールだ。試合では、B1クラスの競技者はアイマスクをつけて「視覚ゼロ」の同じ条件にするのが正式なルールだが、『やっとかめ』のB1クラスのメンバーは、試合のためというよりは、楽しむことを重視しており、アイマスクはつけずにプレーしている。
目の見えない相手の立場に立った指導を心掛ける
レシーブやサーブの練習が始まると、ボランティアは玉拾いやボールの受け渡しに走り回る。大塚さんからは、「おしい!」、「30センチ前」とか、「(サーブが)入ったよー」、「1メートル外」と言った声が絶えず掛かる。自分が打ちそこなったボールが実際はどの位置にあったのか。自分が打ったボールがどこに飛んでいったのか。目の見えない競技者には、そういったことがボランティアの声でしか確認できないからだ。「どういうふうに指導したらよいか、考えながらやっています」と、障害者スポーツの指導員でもある大塚さんは言う。細かいフォームの修正も、言葉でわかりやすく指示する。
B1クラスのコートの隣では、B2クラスの練習が行われている。弱視の寺田さんと、テニス講師の経験があるボランティアの浅岡さんとの試合は、一見硬式テニスそのもの。試合で優勝経験もある寺田さんに対し、浅岡さんの指導にも熱が入る。「健常者に対する教え方とは随分違います。弱視といっても、視野が狭い人や視力が低い人などさまざまなので、まず相手の立場に立って、どうしたら能力を引き出せるかを考えています」と浅岡さん。自身がアイマスクをつけてプレーした経験を振り返り、「自分はたとえアイマスクをしてもテニスというものがイメージできるけど、生まれつき全盲の人はイメージすることさえもできないから、本当に大変なことだと思います。でもみなさん頑張っていて、こちらが勉強になります」。 |
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見えないからこそ、打てたときの喜びはひとしお
視覚障害者の球技としては、サウンドテーブルテニス(平面でプレーする卓球)やフロアバレーボールのように、ボールを転がす二次元的なスポーツがほとんどだったが、ブラインドテニスではボールが跳ねるという三次元の要素が入っている。プレーする上で難しさはあるが、その分、ラケットにボールが当たったときの喜びはより大きいものがある。B1クラスの大塚葉子さんは、ブラインドテニスを始めてまだ1年弱。球技が苦手で、友人から誘われてもなかなか始める勇気がなかったそうだが、「身体を動かしながら友達を作りたい」という思いで、『やっとかめ』の練習に参加するようになった。「試合の勝ち負けは関係ないです。ラケットの真ん中に、“パーン!”とボールが当たった感触が1回でもあると、それだけでもう嬉しくて嬉しくて、その日は元気に帰ることができます」と、笑顔で話す。「岐阜など遠いところから来ているボランティアもいて、本当にありがたい」という葉子さんだが、最年長のボランティアの星野さんも、「自分が楽しんでいます」と、こちらも満面の笑み。
障害者と健常者が一緒にできるスポーツ
ブラインドテニスの試合には、シングルスとダブルスがあり、ダブルスでは障害者と健常者がペアを組む。『やっとかめ』の練習も、後半は障害者とボランティアが順々にペアを組んで、試合を楽しむ。ボランティアが手を取ってパートナーをセンターラインに連れて行く光景や、サーブの度に交わされる「いきまーす」、「はーい」という掛け声も、ブラインドテニスならでは。そして、試合中も、ボランティアは「前、前!」などと声を掛けてパートナーを助け、パートナーがセンターラインを見失ったときは誘導し、ボールも毎回手渡しする。一般のテニスに比べ、ブラインドテニスではこうした競技者同士のコミュニケーションが絶えず繰り返される。
もちろん、練習の合間や練習の後も、メンバー同士おしゃべりを楽しんでいる。「こういう機会じゃないとなかなか健常者と交流する機会がない」という人もいれば、「普段、早く歩けるわけでもなく汗をかくチャンスがないので、ここにテニスをしに来ています」という人など、みなさんさまざまな思いで『やっとかめ』の練習に参加している。 |
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