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月刊「ボラみみ」2008年 6月号 特集

ホタルが舞う里山をもう一度

――定光寺ほたるの里の会――

写真 定光寺ほたるの里

 愛知県瀬戸市の北部に位置する、自然豊かな定光寺自然休養林。その敷地内に、地元の市民ボランティアが約10年かけて作り上げてきた「定光寺ほたるの里」がある。ホタルが生息できる自然環境が減少しつつある中、再びホタルが飛び交う里山を自分たちの手で取り戻そうと、「定光寺ほたるの里の会」を中心に、多くの市民の参加によってできた場所だ。ホタルが生きられない環境は、私たち人間にとっても決していい環境ではない。ホタルを育て、守る活動を通して、里山の自然がよみがえるだけでなく、人間と自然との豊かなつながりも見えてくる。

◆ 「もう一度ホタルを飛ばしたい」
  この想いが原点

 ほたるの里作りは、もともと市民ボランティアが実践する里山保全活動のモデル事業としてスタートした。1997年、愛知万博の開催が決まった瀬戸市の市民団体「水野地域まちづくり協議会」が、日本国際博覧会協会から里山保全事業を受託し、「市民の発想で、放置されている民有地を利用して何かできないか」、と話し合いを重ねアイデアを出し合ってきた。そんな中、まちづくり協議会のあるメンバーがホタルの養殖に興味を持っていたことから、「この山にもう一度ホタルと飛ばそう」というひとつの「夢」が生まれた。

 翌年の1998年10月、予定地でのほたるの里作りが実際に始まり、希少生物の調査や水路の整備に取り掛かった。もともとあった棚田を生かしたジグザグの水路も酸素補給用の水車も、すべてボランティアの手作りだ。下流に水質浄化用のセラミック多孔体を設置し、ポンプで水を再び上流に運んでリサイクルする水路が3月に完成。ホタルの幼虫と、その餌となるカワニナ(貝の一種)を放流したところ、その年の6月にホタルの飛翔が初めて確認された。

◆ ホタルが教えてくれる環境の変化

 2000年4月、「定光寺ほたるの里の会」がまちづくり協議会から独立して発足した。その後も、地域の枠を超えた市民を対象に、ほたるの里やその隣の稲込の郷で、ホタルの幼虫の放流やホタルの鑑賞会、里山体験、稲作体験など、年間を通じてさまざまなイベントを行ってきた。イベントがなくても、週末になるとボランティア数名が集まり、ほたるの里の整備など、自然に囲まれての作業を楽しんでいる。

 ほたるの里を案内してくれたボランティアの桜井さんによると、ホタルの生息に欠かせない条件は、1年を通して適度な水質の水があること、餌となるカワニナがいること、など。ここほたるの里とその近郊の山々には、もともとホタルが住んでいたが、家庭排水などによる河川の汚染でカワニナが減少し、その結果、ホタルの姿も見られなくなってしまった。そんな身近な環境の変化に関心を持ち、会が発足する以前からホタルの養殖を“道楽”でやっていたと話すのが、現在事務局長を務める加藤さんだ。「昔は家で寝ていてもホタルが入ってきたのに、あるとき突然ホタルが減ってしまった。ほんの水一滴で、環境はガラッと変わってしまうもの。ホタルを育てることは大変なことだけれど、もう一度ホタルをたくさん飛ばしたい」。
 そんな想いを共有しながらみんなで活動を続けてきた結果、ほたるの里で観察できるホタルの数は年々増加し、ゲンジボタルだけでなくヘイケボタルやヒメボタルの姿も見られるようになったという。これも環境改善が進んだ賜物だ。

 また、ほたるの里では、ホタルだけではなく希少植物も多く見られる。水路の中央でちょうど花を咲かせて立っているシデコブシの木を指差して桜井さんは、「水路を作るときに周りの木を切り払ったことで、日照りが良くなり、たくさんの花をつけるようになった」と嬉しそうに話す。最近ではイノシシまで現れるようになり、ほたるの里の畑の農作物に被害が出ているそうだが、里山特有の生物が増えることに、これからも期待している様子だ。ホタルにとって良い環境を作ることが、いろいろな効果をもたらしている。「環境」にはそのようなよい連鎖反応があることを教えてくれる。

定光寺ホタルの会イベント

写真 里山見学会・里山体験

里山見学会・里山体験

専門家から里山の自然について学ぶ環境講座やたけのこ掘りなどを行います。

写真 幼虫放流(1) 写真 幼虫放流(2)

幼虫放流

ゲンジボタルの幼虫とその餌になるカワニナの放流を行います。

写真 マイ田んぼ

マイ田んぼ

ホタルの里近くの棚田を登録制で貸し出し、収穫の喜びを味わいます。

写真 ホタル鑑賞会

ホタル鑑賞会

毎年6月中旬に約1週間、ホタルの飛翔時期に合わせホタルの鑑賞のために里を開放します。

写真 炭焼き 写真 陶芸品焼き

炭焼き・陶芸品焼き

陶器作りなどを体験し、作品は稲込の郷の木炭焼成炉で焼きます。

◆ まだまだ夢は続く。広がりつづける里山

 ほたるの里は、現在も拡張を続けている。水路を下流域に延ばしたことでホタルが見られる範囲も広がった。過剰繁殖した竹や間伐材を有効利用するための竹炭焼成炉や木炭焼成炉も手作りで設置し、竹炭は水の浄化に使っている。誰でも安心してホタルの観察ができるようにと作ったバリアフリーステージでは、毎年のホタル鑑賞会のオープニングセレモニーで音楽の演奏などのパフォーマンスも行われ、期間を通して家族連れなど数千人の来訪者で賑わう。地元の保育園や学校単位での幼虫の放流も、毎年の恒例行事のひとつだ。「子どもたちはホタルを見ると目が輝き、感動してくれる」、「以前に幼虫を放流したという人が鑑賞会に来てくれたりもする」と、加藤さんに桜井さん。「ここのホタルは徐々に山から下へ降りていっているが、もっと地域全体に広がっていってほしい」、「いつかお土産にホタルがプレゼントできるようになるくらい、ホタルが飛んでくれるといい」と、笑顔で自身の夢を話してくださった。
 ホタルとともに自然環境を大切にする気持ちが、これからも地域に広がっていくといい。

写真 定光寺ほたるの里看板

「定光寺ほたるの里」へのアクセス

(国道155号高蔵寺方面)、歩道橋のある上松山町の信号を右折(県道208号)、上水野町の交差点を直進(県道207号)、山間の定光寺ほたるの里の看板を左折500m。
※開放期間中は上水野町の交差点付近から案内看板が設置されています。
※開放期間の指定時間・イベント日以外はゲートが閉まっており、入場できません。

ほたるの里一般開放(6月15日〜6月22日、18:00〜21:00)

6月15日(日)は16時からオープニングセレモニーがあります。
※ 日程は2008年のものです。

◎会員を募集しています

会員はホタルの優先鑑賞ができ、各種行事や運営に参加できます。
1家族 年会費2,000円

◎ボランティアを募集しています

6月15日〜6月22日のほたるの里開放時に、受付案内やバリアフリーステージでの演奏をしてくださるボランティアを募集しています。
※ 日程は2008年のものです。

■ 【団体紹介】 定光寺ほたるの里の会
連絡先:
〒489-0006 瀬戸市三沢町1-707 桜井宏和
TEL/FAX:0561-48-0290
E-mail:sakur@aa.aeonnet.ne.jp
URL:http://park1.aeonnet.ne.jp/~hotaru

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