1976年、団体の創始者川原啓美医師は、ネパール僻地の病院で3ヶ月間働く機会がありました。 そのなかで、患者さんのほとんどが貧しいために十分に栄養が取れない状況や、病院にたどり着くために歩いて1週間もかかる環境で生活していることを知りました。 この経験から「この人たちと引き続き関わっていきたい」と思うようになると同時に、言葉も事情もわからない外国人として、できることの限界も感じていました。
そこで、「ネパールの人たちの健康が守られるためにはどうしたらよいのか」と考えていたとき、思い浮かんだのが保健ワーカーの存在です。 保健ワーカーとは、健康のために必要な基本的知識を村の人たちに教え、その人たち自身で病気を予防したり、健康を守ることができるように活動する人たちです。 健康な生活を送るための相談役といった役割を果たします。
それから4年後。川原医師の尽力により、アジアの保健ワーカーを養成する施設として、アジア保健研修所(以下AHI)は設立されました。
AHIでは、アジア各国より研修生を迎える国際研修や、協力団体との協同事業、機関紙や翻訳本の発行、またオープンハウス、スタディーツアー、AHI初めて始めて講座などを行っています。
国際研修では、アジアの国々からの研修生が約1ヶ月間共同生活をしながら、 それぞれの国、地域が抱える問題についてディスカッションし、解決策を探していきます。研修の内容は、ただ援助するというのではなく、 自立して持続が可能な活動に発展させていくため、「NGO」「行政」「組合」がどうやって連携していくか、自分たちの現状に即した方法を考えるようにしています。 また、日本が行っている市民活動の中から、参考になりそうな事例をピックアップし見学に行きます。今までの事例では、パパママ教室(育児教室)や高齢者の筋肉トレーニング教室、 エコドーム(資源回収所)などを見学して回り、驚きや、発見を元に、現地での活動のヒントを探します。また、実際に日本で見たことに関して、 報告や解説をし、誤解のないようにフォローしながら日本について理解を深めていきます。
機関紙の発行では、活動の報告やアジア各国の人々の生活に関する理解を深めるために さまざまな種類の冊子を発行しています。代表的なものは次の4誌です。AHIの活動全般を報告する「アジアの健康」を年4回発行。 子ども会員に向けた会報「アジアの子ども」を年2回発行。 研修生の活動経験や意見を誌上で交換し学びあう場として「ASIAN HEALTH INSTITUTE」(英文ニュースレター)を年3回発行。 AHIの活動を1枚にまとめたAHIニュースを年1回発行しています。翻訳本の出版は、アジアに関する内容で、まだ広く知れ渡っていないものを探し、 ボランティアの翻訳グループが日本語に訳し製本までします。
オープンハウスは、楽しい雰囲気の中でアジアやAHIとの接点を提供することを目的に年1回行われています。 特に研修生と出会う場であることを重視し、彼らの企画や修了式も盛り込まれています。
AHIでは、初めての人も、深く関わりたい人もそれぞれが参加しやすい内容で、楽しく活動しながら、貢献できる場を多く設けています。
自分たちで何かを作り上げたい、みんなと一緒に活動したい人は、オープンハウスの実行委員会や、「アジアの子ども」の編集委員として参加してみるのはどうでしょうか。
研修生と関わりたい、触れ合ってみたい人は、研修生の1泊ホストファミリーやお出かけボランティアという活動もあります。 ともに時間を共有することで、お互いの理解を深め、研修生にとっても暖かく受け入れられることで研修生活の不安や、日本に対してのわだかまりが解け、 親しみを持つきっかけを作ることができます。
自分の得意な分野を役立てたい人は、研修生の食事ボランティアや翻訳グループの活動などがあります。 翻訳グループは、英語に親しみのある人たちが集まって、本の選定から翻訳作業、製本まで和やかな雰囲気で行われていました。
研修生の昼食と夕食を作る食事ボランティアで週に3回活動されている城崎さんは、なんと83歳。もう何十年の大ベテランです。 もともとお料理が好きだったことから、ボランティアにつながり、研修生の食事を支えています。 また、研修生の食文化に合わせた料理は、このボランティアに参加して覚えたそうで、新たな発見や楽しみを見つけながらの活動となっているようです。 事務局にちょうどボランティアにみえていた宮井さんに、お話を伺うことができました。
「昔はボランティアに興味がなかったが、師長さんに勧められてボランティアをするうちに、 自分の存在意義を実感できるようになった。今では自分の家のように落ち着くし、ボランティアに来ることで癒されています」と話します。 また、職員の羽佐田さんにボランティアの存在について伺うと、「ボランティアに関わる層が厚いということは、団体としての厚みを増すことにつながります。 ただそこにいてもらうだけで、底力になります」とのこと。そしてボランティアをしたい人へは、「オープンハウスに遊びに来てくれるだけでも十分ボランティアになるんですよ。 研修生たちは、自分たちを応援してくれる人たちがこんなにいるんだと感じ、勇気をもらえるんです」と、アドバイスをくれました。
最初の一歩を踏み出すことがなかなか難しいと考える、私も含めボランティア初心者さんは、気軽な気持ちで、かつ楽しいイベントにいるだけで、 もうボランティアになっているなんて少しびっくり。自分にもできるかもと思えてきそうですね。イベントに参加して、もっと知りたいと思った方は、月に1回行われている、 AHI初めて始めて講座に参加してみるのもよいのではないでしょうか。
AHIは来年創立30周年、世代交代の時期を迎えています。
記念事業なども視野に入れつつ、新しいAHIを創っていくため、変わらないこと・変わっていくことをどうやってみせていくかが今後の課題だということです。 ゆるぎない基盤を元に新たな展開をみせるアジア保健研修所(AHI)。今後の活動が広く深く広まっていくことをみんなで応援しましょう。