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就職難、ニート、引きこもり。 若者の自立をめぐる社会問題が顕在化して久しいが、日本社会はこれといった有効な対策を打ち出せないままでいる。 そんな中、カフェを拠点に若者の自立支援活動を始めたのが、NPO法人コミュニティサポートスクエアだ。

●●● 顔の見える関係から  ●●●

 NPO法人コミュニティサポートスクエアは、岐阜市粟野東の「コミュニティ・カフェわおん」を拠点に若者の自立支援の活動をしている。 カフェと若者の自立支援、一見結びつきがなさそうであるが、カフェという場を選んだのには確固たる想いがある。 同法人の理事長で、わおんのマスターでもある杉浦さんは「人と人との顔が見える関係をつくり、そのつながりから支援活動をしていきたい」と言う。 カフェという場があることが、地域の人との接点をつくりやすくする。 他愛もない世間話からお互いを少しずつ知り合い、その関係から支援につなげる。 「わおん」の由来も、音楽の和音のように人と人とのつながりがハーモニーとなり、すばらしい地域社会につながるように、という想いからだ。

大きなひらがなのロゴが目を引くカフェの外観

大きなひらがなのロゴが目を引く

●●● 自身のキャリアとしての取り組み  ●●●

 杉浦さんが若者の自立支援に取り組むようになったのは、12年勤務した学習塾での経験が元になっている。 学習塾の会社の先輩が社内でキャリア・コンサルタント事業を開始し、杉浦さんもその資格を取得した。 その縁で、先輩が退社後に立ち上げたキャリア形成支援のNPO法人に約5年勤務。 通算で約100人のニート状態の若者と合宿生活を送り、若者の自立支援に対する想いを強めていった。 その後杉浦さんは独立若者の自立支援事業を立ち上げ、昨年3月にNPO法人化した。
 そんな杉浦さんだが、実は自分が支援される側になっていたかもしれないという。 「1年間ほど、家族や友人にも行き先も告げずに放浪していた時期があります。 そのまま社会復帰できなくても不思議ではない状態でした」。 だからこそ、せっかく積んだ経験と取得した資格を活かす道を選んだ。 つまり、キャリア・コンサルティングと自立支援の仕事が、杉浦さん自身のキャリア形成になる。  

杉浦さんの想いがひしひしと伝わるメッセージボード

杉浦さんの想いがひしひしと伝わるメッセージボード

●●● いつの間にか、そしてお互い様の支援を目指す ●●●

 杉浦さんが目指す支援は「できるだけ普通に」だ。 無理をせずにできることから、そして楽しんで、それが結果として支援につながってほしいと願う。
 そんな想いが、わおんで開催する「チアカフェ」で形になりつつある。 チアカフェとは、若者の自立支援ではなく、東日本大震災の被災地復興を応援する会のことで、支援活動に取り組む人が集まり、横のつながりをつくる場となっている。 学校や会社では出会うことのない人との出会いがチアカフェの大きな魅力で、回を重ねるごとに多くの人が集まってくるようになった。 時には楽器や歌が得意なメンバーが集まってライブ演奏が披露されることもある。 最近では、岐阜市周辺に避難している方々も加わるようになり、支援者と交流する場にもなっている。 福島から避難したあるご家族は、「近所との交流が少ないので、チアカフェのような場があるのはとてもうれしい」と語る。

チアカフェでのひとコマ ほぼ満席です!

チアカフェでのひとコマ ほぼ満席です!

 今後はこのチアカフェを発展させて、避難している方々にも、食材の仕入れ、料理、ライブでの演奏や歌など、それぞれの得意分野を活かして活躍してもらえる場づくりにつなげたいと考えている。 「人は誰かに求められることが、生きがいにつながる。 避難している方々にも役割をつくる。 若者の支援でも同じような考え方でやってきた。 その経験がチアカフェで役に立っていると思う」と杉浦さんは言う。

メッセージボード

メッセージボード

●●● 10代の居場所づくり ●●●

 カフェを営業するだけでも大変なことだが、杉浦さんは常に次の段階を見据えて事業を打ち出している。 その一つが、新聞でも大きく取り上げられたことのある「ティーンズイブニングスペース」だ。 これは夕食時に親がいない10代前半の子どもを対象に、夕食付き居場所を提供する事業のこと。 わおんの店内で、地域の人が宿題を見たり話し相手をすることで、子どもたちを孤立させない取り組みだ。 子どもにとっては、親と先生以外の大人とふれあう貴重な機会にもなる。 利用料は1時間300円、夕食は別途1食500円前後で提供。 潜在的にはかなりの需要があると杉浦さんは予測する。 この事業では子どもたちと一緒に過ごしてくれるボランティアを随時募集している。

木のぬくもりを感じる店内

木のぬくもりを感じる店内

●●● さまざまな苦労とつながりの暖かさ  ●●●

 今までは、若者の直接的な就労支援ではなくそのために必要なコミュニティを作ることに注力してきたが、地域のミニコミ誌の作成や便利屋事業など、これから取り組みたいことは山のようにあるという杉浦さん。 若者の自立支援につながるような社会参加の場面を生み出そうという考えからだ。 しかし、新しいことを始めようとする時には関係者との調整に時間がかかることもしばしばで、苦労は絶えないそうだ。 それでも、取り組みに賛同してくれた方がわおんに集まり、緩やかな心地よさが和音を奏でる。 そんな時、人と人とのつながりの暖かさを感じ、それがまた杉浦さんの意欲にもつながっていく。 今では、わおんが杉浦さんの大事な宝物となっている。

カウンターで常連のお客様と談笑する杉浦さん(左)

カウンターで常連のお客様と談笑する杉浦さん(左)