「いこまハウス」ができて4年。山内さんをはじめスタッフは、たとえ言葉というコミュニケーション手段を持たない利用者に対しても、労を惜しまず、彼らから発せられる心の声にじっくり耳を傾けてきた。豊かな自然、校舎ならではの温かく広々とした空間、援助する側の都合を押し付けない時間の流れ方。そうしたさまざまな条件が功を奏してか、興奮の激しかった自閉症の利用者たちが暴れなくなったり、服薬していた薬の量が減ったりした。
「彼らもここに来てストレスが減ったんでしょうね。僕も同じ。無駄を無くしたり工夫をすれば、スタッフが少なくてもやれなくないんだってことがわかりましたよ」と、山内さん。
スタッフは、この4年間で8人に増えたが、それ以上に利用者は増え続けた。そして、もともとは家族の介護負担を一時的に軽減させる短期滞在が主なサービスだったのが、いつのまにか長期滞在の割合が増えていた。山内さんは、本来のレスパイト以外のニーズを感じ取り、次の行動に出た。
それが、今年四月に「いこまハウス」から車で三十分の距離のところにオープンさせた「笹戸ハウス」だ。生活の場として利用者に個室を提供し、長期滞在者にも短期滞在者にも対応できるようにした。「いこまハウス」は、「笹戸ハウス」の利用者や日帰りの利用者が昼間憩える場になり、それぞれの役割が明確になった。
宿泊施設としての役割から開放された「いこまハウス」は、来年から、半自給自足の生活をめざして、畑仕事や椎茸栽培、パン造り、それにハーブ栽培などができる仕事場としての機能も持たせることになった。さらには、一般の人が大自然を満喫できる憩いスペースとして、場所を提供するサービスも展開する。
「僕自身この業界でこれもあれもやりたいって思っているわけじゃない。本当は、早く後進に道を譲りたいんです。」
山内さんに、10年後の夢を聞くと意外な答えが返って来た。ただし、続きがあった。「でも、助けてほしいという人がいたら、やっぱり辞められないんでしょうね。」
来年から、障害者福祉も高齢者の介護保険のように契約をベースとした支援費制度が取り入れられる。介護保険がそうであったように、このサービスの枠からはみ出してしまう人の出ることが、すでに予想されている。こうした事情を考えても、山内さんは当分、この仕事を辞められそうにないだろう。
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「いこまハウス」 「笹戸ハウス」
責任者 山内貞さん
○福祉サービスの問い合せは、常時受け付けています。
○「いこまハウス」は、一人一日1500円で一般開放。
施設内の設備はすべて利用可。春夏にはバーベキュー、プール、秋には松茸などキノコ狩りが楽しめます。宿泊も応相談。
●「いこまハウス」
〒444-2801
愛知県東加茂郡旭町大字牛地字西久保2-85
TEL(0565)68-3007
●「笹戸ハウス」
〒444-2826
愛知県東加茂郡旭町大字笹戸字前田4-2
TEL(0565)68-3778
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