特集  2005年12月号特集     HOMEへ > バックナンバーへ 
眠った道具を生き返らせて、人も地域も元気になる。
リサイクルと国際協力を兼ねた「自立国のための道具の会」の活動
 「不要になった、古くなった道具があれば送ってください」。この呼び掛けに応じて日本各地から送られてくる「眠った道具」を生き返らせて、道具を必要としている発展途上国の人々に送る。そんな、リサイクルと海外協力を目的とした活動を行っている自立のための道具の会(TFSR Japan)。

 ただ道具を送るだけでなく、送り先の国のNGOなどと協働して、人々の自立と地域の活性化を共に目指す様々なプロジェクトを行うなど、小さな道具が大きな交流を生んでいる。


送り先のNGOと協働してプロジェクトを行う様子

 イギリスが発祥のTFSRの活動を名古屋に

 TFSR(Tools For Self Reliance)の活動はイギリスで始まった。1979年に、グリン・ロバーツ氏の提唱により誕生したTFSR U.Kは、大工道具やミシンなど、これまでに100万点を超える古道具を回収。それらはアフリカを中心とする発展途上国で再利用されている。
 1993年3月、グリン・ロバーツ氏が日本に招かれ、各地で講演を行ったことがきっかけで、同年9月、TFSRの活動に賛同した約10名が、名古屋にTFSR Japan(以下「道具の会」)を設立した。12年経った現在、会員数は300名を超え、送った道具の数も約1万数千点にのぼる。  

 道具の会の作業本部(豊田市旭八幡町)の代表を務める鈴木さんも、設立に関わった一人だ。ロバーツ氏の話を聞いてから、道具や資金の集め方、道具の保管方法などについて話し合いを重ね、イベントにも積極的に参加して「道具の会」の宣伝をした。
 メディアにも取り上げられ、少しずつ道具が集まるようになると、鈴木さんの仕事場でもある製材所の倉庫の一部を道具の保管場所として提供した。その後も、企業ぐるみで道具の提供を受けるなど、ついに専用のコンテナを設置するまでになった。
 この作業本部は、道具の修理・発送作業の活動の場となり、年4回のワークショップでは、毎回大勢のボランティアが道具の修理や仕分け作業を行っている。



 集めた道具を持って直接途上国へ行くことも
 

スリランカでのSLATE事業のひとコマ
スリランカでのSLATE事業のひとコマ。
 水道も電気もない貧しい国や地域では、人々が自立して生活するためにはまず道具が必要だ。道具の会は、これまでに、タイ、インド、フィリピン、バングラデシュなど、様々な国に道具を送ってきた。
 2001年からは、アジア太平洋立命館大学の学長で、道具の会の事業統括部長を務める、スリランカ出身のモンテ・カセム氏の働きかけにより、スリランカのSLATE事業に参加するようになった。

 
 スリランカ全域の小・中学校のカリキュラムに技術習得のプログラムを導入する、スリランカ教育省が実施するこのSLATE事業の一環として、道具の使い方や手入れ方法を現地の先生や生徒に伝えるワークショップを行っている。
 「スリランカ各地から集まった技術・家庭科の先生たちは、明日から自分たちが使う道具だから一生懸命話を聞いてくれた。子どもたちには、いろんな道具を実際に使って体験してもらい、『この道具を使ってこんな仕事ができるんだ』という、職業意識が芽生える機会になった」と、鈴木さんも喜ぶ。

スリランカの生徒の写真

 「道具」だけに限らず、道具の会には、エネルギー部門や電気部門など、様々な専門チームがある。「道具を送ることで、その国の様々な不具合が見えてきて、『日本ではこうやってきた』『この国でもこうできるのでは』という発見があり、いろいろな協働ができることに気づいた」と話すのは、道具の会の代表の川島さん。
 その一例として、エネルギー部門のメンバー、石田さんが独自に考案した水力発電機で、スリランカのある小さな村に水力発電所を作った。装置の組み立てからダム造りまで、現地の人と一緒に作業を行うことで、一時的な支援に終わることなく、この水力発電所は今でも地元の人たちの手によってきれいに維持されているという。


 作業本部でのあるワークショップの1日

 10月22・23日の両日、豊田市旭八幡町の作業本部でワークショップが行われ、中学生から、立命館大学「道具の会サークル」の大学生、ベテランの大工さんまで、道具の会のメンバーや、道具の会の活動に興味を持つ人たち十数人が集まり、いろいろな作業を分担して行っていた。
 「プロの大工さんが来てくれるので腕は磨けるが、プロにはかなわない」と笑いながらも、慣れた手つきでのこぎりの刃を研いでいたのは、道具の会に参加して11年になる加藤さん。「国際協力という意識が先にあったわけではなく、道具が好きで、道具の研究をしてきた自分の力が、途上国でも役に立つのではないかと気づいてしまった」と、自身の活動を振り返る。
 「長期間仕事を休んで国際協力をするのは大変だが、こうした年数日のボランティア活動を数十年続けることはできる」と、自分のできる範囲で活動を楽しんでいる様子だ。


作業の様子1 作業の様子2 作業の様子3

 その隣でかんな研ぎをしていたのは、23年間大工として働いていた荒川さん。道具の会が発足した時に鈴木さんに声を掛けられ、「刃物を直せる人は少ないから、自分の経験が生かせるなら」と、この活動を始めた。家には40年前から使っている道具があるほど、道具を大切にする荒川さん。
 「刃物は、よほどさびがひどくない限り、のみでも、かんなでも手入れすればいつまでも使える」と、道具の素晴らしさを教えてくれる。「自分が手入れして、次の人に使ってもらえるから、こうして道具を送ってきてくれることはとてもありがたい。次の人にも大事に使ってもらいたい」と、道具に対する思いが伝わってくる。


道具箱作りの様子 道具箱作りの様子
ワークショップに初参加した、茅野市立北部中学校の生徒会のみなさん。手に持っているのはスリランカに送る道具箱用の板。
ワークショップに初参加した、茅野市立北部中学校の生徒会のみなさん。
手に持っているのはスリランカに送る道具箱用の板。

今回が初参加という、長野県茅野市立北部中学校の生徒会の5人は、学校の文化祭の収益金の使い道を検討していたときに、道具の会に出会った。「ネットでいろいろ検索していたときに、道具の会の水力発電事業に魅力を感じて、収益金を全額寄付した」と言う。
 この日は、鈴木さんの指導を受けながら、スリランカの学校に送る道具箱作りなどを手伝っていた。

 ひとつひとつの箱に、自分と相手の名前、メッセージなどを自由に書いていく。この箱がスリランカのどこかの学校に行くので、機会があれば見に行ける。そんな楽しいアイデアを、鈴木さんはどんどん取り入れている。
 みんなの思いと道具が詰まった道具箱は、毎年50個、スリランカに送られている。

     

 まだまだ十分役に立つ古道具たち  
 
 作業本部に設置されたコンテナをのぞくと、新品と思われるきれいな道具がたくさんあることに気づく。モデルチェンジや電動化、建築資材や建築構造の変化などに伴い、日本では売れなくなったり、使い手のいなくなった新品の道具もこうして送られてくる。

 「途上国でも地域によっては次第に発展し、次は『よりきれいに作ろう』という段階に来ている。高性能の道具でなくても、無いよりはまし。日本では不要となった道具がむしろ必要とされる」と川島さんが言うように、日本では埋立地に行ってしまう道具も、他の地域ではまだ十分必要とされているのだ。  
道具が保管されているコンテナ

道具が保管されているコンテナ。下は説明してくれた川島さん。

説明をしてくれた川島さん

 もちろん道具は危険が伴うものなので、何でもいいから送ればいいというわけではない。消耗品は取り替えて、安全確認をきちんと行うことも大事だ。「専門技術を持つ仲間が増えれば、生き返る道具はもっと増える」と川島さん。コンテナの中で、誰かに使われるのを待っている道具を手にして、「もったいない」と何度も口にする。
 長年の工夫が詰まった、素晴らしい日本の道具。それが海外の人に使われ、生活に生かされている。道具の会の活動は、道具の尊さを私たちに再認識させてくれる。


 
information

自立のための道具の会


URL:http://www.tfsr.jp

TFSR「道具の会」に関する
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事務局,情報センターへ

名古屋市中村区名駅南1-20-11
NPOプラザなごや3F南
TEL:052-569-2777 FAX:052-569-2778 


「道具」に関する
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作業本部へ

豊田市旭八幡町敷田173-1
あさひ製材協同組合
TEL:0565-68-2458 FAX:0565-68-2817
E-mail: tfsr@suzuki.email.ne.jp

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