特
   集
女性同士の支え合い精神をモットーに、生き方のサポートを。
 − NPO法人  フェミニストカウンセリングなごやの取り組み −
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女性が多様な生き方を選択できるようになったといわれる今の時代にあっても、日々家庭や職場で肉体的・精神的苦痛にさらされている女性は少なくない。ドメスティックバイオレンス(DV)や、セクシャルハラスメントといった社会的関心の高い問題をはじめ、男性中心の社会構造が生み出した大小さまざまな差別や問題が女性たちを取り巻いている。そうした社会に息苦しさを感じている女性たちが自分らしい生き方を模索し、いきいきとした人生を歩めるようにと、フェミニズムの観点からあらゆるサポートを行っている団体がある。この地域の女性向け相談支援活動の草分け的存在でもある、NPO法人フェミニストカウンセリングなごやだ。この団体の取り組みを取材した。

フリーライター杉山春さんを講師に迎えた講演会
 3月半ばのとある日曜日、名古屋市中区にある男女平等参画推進センターで、フリーライターの杉山春さんの講演会が開かれ、約90名の人たちが集まった。杉山さんは、子育てや親子問題をテーマにしたルポを執筆、この日は2000年12月に愛知県武豊町で起きた3歳女児の虐待死事件の取材を通して見えてきた、児童虐待とその背景にあるジェンダー(社会的性差)の問題について話をした。ゆがんだジェンダーのあり方が、虐待死させられた子どもやその両親の育った環境のなかにも大きな影響を及ぼしたことを指摘し、既成の社会の仕組みや家庭環境が多くの女性たちを苦しめていることを力説した。講演のあと、会場からの声として「ママ友でもいじめがある、どうすればよいか」「虐待などの問題で困ったときどこに相談すればよいのか」といった質問がアンケート形式で読み上げられた。杉山さんは「何とかしたいという思いを自分の中で十分に発酵させる。そして身近な人にSOSを出すことが大切。本当に怒るべきところでは怒り、弱音を吐きましょう。弱い存在でもいいのですから」と締めくくり、参加者を励ました。
 この講演会の企画や運営を担ったのが、フェミニストカウンセリングなごやだ。社会的に関心の高い旬のテーマにそった講師の選定から、当日の会場の設営や受付、司会進行まですべてをこなす。ほぼ毎年一回は行政などとの連携でこうした一般向けの講演会を行い、より多くの人たちに女性をめぐるさまざまな問題を知ってもらうとともに、フェミニズムおよびフェミニストカウンセリングへの理解を深めてもらおうと力を注ぐ。今年はDVと児童虐待との関連性に注目したテーマでの企画となった。
今年3月に開かれた講演会 講師の杉山春氏

フェミニストカウンセリングとは・・・
 団体名にもなっているフェミニストカウンセリングとは、フェミニズムと心理療法をドッキングしたカウンセリング手法で、1970年代フェミニズムとともに登場し、日本では河野貴代美氏(現・お茶の水女子大学開発途上国女子教育センター客員教授)により広められ1980年東京でフェミニストセラピーなかまが開設された。1975年にスタートした「国連女性の10年」の影響もあって当時大変に注目をあび、1993年には日本フェミニストカウンセリング研究連絡会(現・日本フェミニストカウンセリング学会)が発足。日本各地にも広まり、地域での実践の場として1993年設立されたフェニミストカウンセリングなごやは、団体としては13年目を迎え、NPO法人になって3年が過ぎた。
 現在女性をサポートする団体は、子育て支援、介護相談、虐待防止などさまざまな分野で増えてきたが、フェミニストカウンセリングなごやは、まさにそうした女性団体の先駆的存在にあたる。会を運営しているスタッフはカウンセリングルームや講座を主催する他に、行政の女性相談窓口や、病院、学校などといった現場でカウンセラーや電話相談をしている、いわばカウンセリングのプロたち。設立当初からのスタッフ5名に、団体のスタッフ要請講座を受講した女性たちも加わり、現在学会資格であるフェミニストカウンセラーや臨床心理士等を含めた11名のスタッフが活躍している。
 「私たちの活動は、もともとは草の根的なシスターフッドつまり女性同士の助け合い精神から生まれたものです。ただ昨今は、DVなど女性をとりまく問題の複雑化があり、カウンセラーなら誰でもいいというわけではなく、フェミニズムの視点をしっかり持ち、専門知識を備えた人が必要になりました」と、あるスタッフは語る。スタッフのほぼ全員が、ウィークデーの昼間は自分の職場で仕事やフェミニストカウンセリング関係の活動をし、ミーティング等の活動は夜か休みの日をあてているという。個人・グループカウンセリングのほか、女性センターや公民館などでの女性のための講座、行政の相談室への相談員の派遣、講演会の企画および講師の派遣など、スタッフたちの地道な活動は、社会での認知度も除々にあがり、行政からの講師・相談員の派遣要請件数も伸びてきている。

独自プログラム「DV防止シアター」
 フェミニストカウンセリングなごやが行うプログラムの中で注目が高いのはDV問題。深刻で緊急度の高い相談が多く、団体が設立して間もない1994年に「性暴力NO!なごや女たちの会」が行った東海地方で初めてのDV電話相談「夫からの暴力110番」にいち早く参加した。当時は、DVへの知識や関心も極端に薄く支援の窓口がほとんど整備されていなかった中での取り組みだった。相談の日には、スタッフが席を立つ暇もないほど電話が鳴り止まない反響だったという。時代は流れ「女性への暴力ホットライン」という名称で電話相談は継続する一方で、「DV防止シアター」という独自のプログラムを編み出し、7年ほど前から一般向けや民生委員、児童委員など援助者を対象にした講座を開いている。講師などが一方的に話す講座ではなく、双方向型の講座で、DVが行われている場面を再現する小さな寸劇を取り入れた。1セッションが2時間ほどで、スタッフが演じた後、会場の参加者が加害男性役、被害者の女性および子ども役を演じて役割体験をしさらに感想や意見をやりとりする。
 「DVへの関心や知識も地域差が大きい。例えば都市と比較して地方では、DVやジェンダーといってもなかなか受け入れられません。うちの場合は暴力じゃない、って言われるんですけど、でも聞いていると十分暴力だったりする、そんなケースが結構あるんです。DV防止シアターは臨場感があって、DVがどういうものなのかが具体的にわかってもらえます」と語るスタッフ。シアターが終わった後にアンケートをとると、自分たちのケースが虐待やDVだと言うことに気づいた、という記述があったりするという。
 一方、カウンセリングにおいては、対人関関係や、夫婦・家族の問題、職場での女性の問題、子育てについての悩みなど、あらゆる内容で占められている。女性が何も言えないという環境で、問題を自分の中で内面化させ一人で葛藤している女性に、カウンセリングを通して、「私達女性はすべての人と同じように大事にされ、そして、自信を持って行動してもいい」というメッセージを送ることで女性の気持ちが解放されることも多いという。団体の今後の展望についてうかがうと、あるスタッフはこう結んでくれた。
 「活動を始めて13年以上が経過しましたが、まだまだ男性中心の社会は変わらず、家庭や企業の中で縮こまっている女性は少なくありません。女性が社会に出て行く中でぶつかる問題もどんどん深刻化しています。DVひとつとっても、これをなくすためには世の中全体を変えていかないといけない。私たちの活動が必要とされなくなる社会の実現が目標ですが、今はまだすることはたくさんありますね」。
DV防止シアターの様子
Information

NPO法人フェミニストカウンセリングなごや
〒464-0821
名古屋市千種区末盛通1-17中久木ビル3F
TEL: 052-764-0311
FAX: 052-764-0312
E-mail :
fcnagoya@poppy.ocn.ne.jp
URL : http://www10.ocn.ne.jp/~fcn/

【プログラム】
個人カウンセリング、女性のための各種講座、DV防止シアター、アサーティブネストレーニング、相談員及び講師派遣など
※料金はプログラム毎に決まっていますので、詳細につきましては電話でお問い合わせください。
【会員募集】
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●情報会員 - 年会費1000円
FCN通信を送ります。

【女性の暴力ホットライン】
夫、パートナー、恋人など、身近な男性から振るわれる暴力、職場やキャンパスのセクシャル・ハラスメントについての相談を、訓練を受けた相談員が電話で応じます。秘密は守ります(あなたの電話番号は表示されません)。

  TEL:052-764-7867
  相談日:毎月15日 10:00〜16:00

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