2007年8月号 ■特集■ 

「こころに響く音楽を届けて、同じ時間と感動を共有したい」
ボランティアグループ 結(ゆい)

 JR春日井駅から北へ約5km程、小牧市に隣接する春日井市西山町。周辺は、春日井市民病院の近代的な建物がひときわ目立つが、のどかな田畑の風景が広がる。その自然に囲まれて、古民家風の佇まいの「ギャラリーゆんたく」がある。一流の作家を招き、市外からも多くのファンが訪れるギャラリーには、オーナーの梶田峰子さんの求心力にひかれて、さまざまな人が集まってくる。そしてここは、そんな人の縁がつながって、ボランティアグループ結が生まれた場所。「新聞の片隅に明るいニュースを提供できるような活動をしていきたい」と話す梶田さんにお話をうかがった。


  
自然に仲間が集まって

 高い天井には無垢の木の梁が渡り、広々とした土間のたたきに柔らかな光がさしこむ。自然の温もりにつつまれ、ゆるやかな時間が流れる空間だ。梶田さんが自宅の隣にこのギャラリーをつくったのは、4年前の2003年。

 「50歳を過ぎて、生き方を変えてみようと。何でも自分できちっと計画を立てて行動するタイプだったけれど、これからは方向性をあまり決めないで、いろんな人と知り合って、いろんな人の声に耳を傾けてみようと思って」。そんな思いをのせてギャラリーはオープンした。子どもの頃から手先の仕事が好きで、40代のとき、さおり織りという手織りに魅せられ、自宅内に工房をつくり、創作に没頭した時期を過ごしたこともあった。

 ギャラリーでは、自らの好奇心と確かな目で選んだ作品の展示の他、作家のワークショップやときには音楽会を開くなど文化を発信し、アーティストとの交流を育んでいる。「初めてギャラリーで音楽会を開いて、ささやかな収益があったんです。それを何かに使いたいと思って。それで春日井市民病院でコンサートができないかと。病気のときって、本当にいい音楽を聴きたいと思うんです」。そう話す梶田さんは、市民病院で長い入院生活の経験があり、特に音楽通というわけではないけれど、闘病中は、耳がいい音楽を求めていたという。「病院に何かお返ししたい、患者さんを励ましたいという気持ちもありました」。そして知り合いを通じて病院関係者を紹介してもらい、プロのバイオリニストにも快諾してもらい、とんとん拍子に話が進み、2004年12月に市民病院のロビーで音楽会を開くことができた。このことがきっかけで、仲間が自然に集まって、幼稚園や福祉施設などへ音楽をプレゼントする活動をしていこうと、ボランティアグループ結は生まれた。

 「主なメンバーは12人ぐらい。音楽会やイベントがあるときは、ギャラリーに集まって、お茶飲みながらわいわい会議して。ときにはトランプやったり、手づくりの料理を囲んだり、みんなで大騒ぎして、すっごく楽しいですよ」。お互いの顔が分かり合えるちょうどいいサイズの仲間と、できること、やりたいことを楽しみながらやっている様子が、こぼれる笑顔から伝わってくる

2004年12月、春日井市民病院で開いた音楽会
2004年12月
春日井市民病院で開いた音楽会。
全国で活躍する全盲のバイオリニスト、
穴澤雄介さんを招いて。


  地球交響曲で伝えたいもの

 ボランティアグループ結では、この5月、春日井市民会館で「地球交響曲第六番」(ガイアシンフォニー)という日本のドキュメンタリー映画の上映会を主催した。地球交響曲は1992年に「第一番」を公開して以来、最新作の「第六番」まで、全国各地の観客の自主上映会によって広がり、観客動員数は延べ約220万人を超える。映画は、写真家、音楽家、学者などさまざまな分野で活躍する人たちが、自分の仕事や生き方について語り、自然や未来へのメッセージを送るという内容。全編に「私たちは大いなるものに生かされている」という思想が流れ、美しい自然の映像とともに、「地球の中の私」を印象づける。

 ずっと地球交響曲のファンだった梶田さんは、去年の秋、監督主催の「第六番」の上映会に参加して、『ぜひ最新作は結でやろう』と決意。自主上映会では、上映会場の選定から予算組み、チラシ・ポスターなどの製作、チケットの販売はもちろん、当日の仕切り、進行すべてを主催者が行う。そしてより魅力な上映会にするために、主催者ならではの趣向を凝らすことができる。

 映画上映後に行われたアーティストの奈良裕之さんのライブは、結ならではのオリジナルな演出だ。「第六番」では数人のアーティストが出演し、独自の楽器で音を奏でるシーンがある。奈良さんもその出演者の一人。映画の中で、奈良さんは生まれ故郷の釧路湿原に立ち、スピリットキャッチャーと呼ぶ弓を振り、弦の唸る音を湿原に響かせる。

 その同じ弓を掲げて、大きく回転させながら、奈良さんは会場にあらわれ、観客席の通路をゆっくりと歩く。弓が風を起こし、それによって生まれた弦の唸る不思議な音が、会場を包んだ。奈良さんは民俗楽器の即興演奏家で、ライフワークとして全国の病院や福祉施設などで演奏活動を行っている。偶然だが、奈良さんとは、映画出演以前に出会っていて、音楽プレゼントの活動に参加してもらったことのある縁の人。
 「上映会には約700人のお客さんに来ていただいた。大盛況の動員数と言われました。映画を通して、地球ってほんとに美しい、一人一人がそれに気づいて、未来の地球についてもっと考えていこうよと伝えたい」。そんな梶田さんの影響もあって、小学生の4人の孫たちもこの映画のファンに。「4人集まって、『地球をきれいにするためには、ゴミを減らさなきゃ。そのためには、給食も残さないようにしよう』なんて話し合ってるの。ああ上映会やってよかったって思いましたね」とうれしそうに話す


「地球交響曲第六番」のポスター 「地球交響曲第六番」後の記念撮影 「けやきの家」での音楽会
「地球交響曲第六番」の上映会を終えて、
出演者の 奈良裕之さんを囲んでメンバーで記念撮影。
知的障害者施設「けやきの家」での音楽会。
初めて聴く音色に子どもたちも興味津々。


  音楽ってすばらしい

 ボランティアグループ結では、近隣の幼稚園や小学校、福祉施設などでこれまでに10回、音楽プレゼントの活動をしている。春日井市の愛知県心身障害者コロニーで、重度障害者の人たちに音楽会をプレゼントしたときのこと。演奏者はさきほどの奈良裕之さん。車椅子に座り重い障害を抱えた子どもたち、手足の動かない子、目の見えない子、耳の聞こえない子もいる。その子たちを前に、梶田さんは『この子たちに何かわかるでしょうか?』と尋ねると、奈良さんはひと言、こう言った。『内なるものに響けば』。そして奈良さんの演奏が始まると次第に、不自由な体を横に縦にゆらす子、よだれを流して声を発する子、とさまざまに反応する姿が。「音楽が心に響くというのはこういうことなのか…と思いました。施設の職員の方が、子どもたちのこんな姿は初めてみました、と喜んでくれました」。

 また、犬山市の病院の精神科での音楽会のとき。演奏を聴き終わった患者さんが梶田さんのところにきて、『ぼく、生きてていいんですよね。生きてていいんですよね…、こんなすばらしい音楽、これまで聴いたことがなかった』と涙を流す姿に、思わずもらい泣きした。「音楽ってすばらしい。障害者の人たちと出会って、音楽を通して同じ時間を共有し、感動し合える。そんな場にいられることはなんて幸せなんだろうと思います。これからももっともっといろんな人と出会っていきたい」と梶田さんは目を輝かせる。

 今後の活動についてたずねると、「いざ何かやるぞっていう時に手を貸してくれるネットワークもあちこちにできたので、それを生かしてこれからも活動をしていきたい。そして原点に戻って、病気の方たちを勇気づけられたらと思っています。今、殺人、いじめなど悲しいニュースが多い中で、明るくてあたたかいニュースを新聞の片隅に提供できたらいいですね」。これからも音楽と人を結んで、心に響く物語を奏でていく。
梶田峰子さん
梶田峰子さん。
ギャラリーの名前「ゆんたく」は
沖縄の言葉でおしゃべりのこと。

Infomation    ボランティアグループ 結
     <連絡先>
  春日井市西山町4-10-13 ギャラリーゆんたく 
  TEL:0568-84-5116
  E-mail:jit_yntak@yahoo.co.jp