病院、お医者さん、治療、薬…。私たちが体調を崩したとき、回復するために誰もがそれらを受けられる制度が日本にはあります。しかし、同じこの瞬間を生きながら、医療に関する環境が全く異なる国や村があるのも現実。今回は、日本から遠く離れたアフリカの地で、無料医療活動を行う団体を訪ねました。

ケニアにおける医療問題とは

 “特定非営利活動法人 アフリカ支援 アサンテ ナゴヤ”は、毎年9月に東アフリカ ケニアのGEM EAST村を訪れ、無料医療活動を実施している。昨年は、医師や看護師を中心とした20名の医療チームを結成。現地キャンプを設営し、5日間にわたって診療を行ったという。ボラみみの取材に応じてくれた理事の石川さんと坂光さんは、鍼灸師。「鍼灸は痛みに対して即効性があるので、現地でも結構人気があるんですよ」と話す。

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 石川さんが初めてケニアの地を訪れたのは、2002年。 貧富の差、医療格差に大きな衝撃を受けたという。毎年多くの人がマラリアなどの病で命を落としているが、なかでも深刻なのがHIVへの感染である。ケニアにおけるHIV感染率は減少していると言われているが、貧困層や、医療の恩恵を受けられない農村では、状況は大きく異なる。同団体では毎年キャンプに検査環境を整えているが、まず受検してもらうことそのものが難しいのだとか。「正しい知識や情報が伝わっておらず、病気そのものがタブーとなっているんです。『HIVの検査をするためにだけ来た』というと集まってもらえないので、まずは内科などの診療を行い、本人の希望を受けて、インフォームドコンセントの後、検査を実施しています」と石川さん。現地では「詳しくは分からないが、とにかく怖い病気」というイメージだけが広がっているため、一つひとつのステップを慎重に進めることが重要だという。 また、継続的な治療や精神面のケアが難しいのが現状だが「現地NGOと連携しながら、HIV感染拡大防止はもちろん、医療や生活環境の整備のお手伝いも長い目で見て続けていきたいと考えています」と話す。

人は、誰もがつながっている

 アサンテ ナゴヤの会員は、約70名。お互いのつながりを通して増えたメンバーが多いという。「私は石川さんからの呼びかけで、活動に参加することになりました。実際に現地に行ってみて感じたのは、普段見ていない世界の広さと深さです。医療に携わる身としても、ひとりの人間としても、ケニアでの経験は大変貴重なものでした」と坂光さん。 日本で多くの経験を積んできたが、現地での活動は新たな感覚をもたらしてくれたという。「人のつながりの大切さを改めて実感していますね。ケニアへの訪問は年1回ですが、準備などには相応の時間と労力がかかります。でも、それを支えてくれるたくさんの人たちがいる。基盤をつくってくれる現地のNGO、資金面で援助をいただいている多くの方々に少しずつ力を借りて、活動ができているんです。私たちの現地での活動は、まだまだ小さなことかもしれない。ケニアのすべてを見たとは言えないし、どこまで役に立てているかは分からない。でも“行って活動すること”そして“経験を多くの人に伝え、新たなつながりをつくること”が私たちの役割だと思うんです」と語る。

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 今年も9月に医療キャンプを予定しているというアサンテ ナゴヤ。今回は医療活動だけでなく、生活環境整備のために井戸を掘る計画もあるという。ボラみみ読者に対しては「意識していなくても、どこかで必ず人はつながっています。 遠くの国のこととは思わず、自分に何ができるか、少しだけ考えてもらえたらと思います」と話す。同団体は、国内ではHIV予防啓発のイベントや講演会なども行っている。機会があれば、ぜひ一度足を運んで欲しい。

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