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ボランティア医師の診察の様子
年末年始の越冬活動。医師の無料診察や生活相談。以前は年末年始は福祉事務所の窓口も閉鎖し仕事もないため、ホームレスにとってこの1週間がもっとも厳しい時期だった。今は福祉事務所も休日窓口ができたが、例年この時期には大々的な活動を行う。写真は、テントの中で診察するボランティア医師。
区切り絵
生活全般に渡る相談業務
 1985年、笹島診療所が設立された。日雇労働者向けの「ささしま食堂」、笹島日雇労働組合、笹島診療所が入居できる会館を借金で購入した。
 活動内容は、診療所での平日の相談、毎週木曜夜「NPOささしま共生会」が行う炊き出し場所での相談、毎月第4日曜の午前、公園などで行う医師の無料診察、福祉事務所や職安での支援など。
 平日2時から5時までの相談には、1日平均6〜7名が訪れる。相談内容は、医療のみに限らず生活全般に渡る。「体調が悪いから病院に行きたいが、住所がないし保険証もお金もない」という人には福祉事務所を紹介し、福祉事務所から病院を紹介してもらう。ときには付き添って行くこともある。「アパートを借りるお金ができたから契約したいけど保証人がいない」という人には、診療所が保証人になることも。もちろん誰に対しても保証人になるわけではないが、そこにあるのは「信頼関係」だけだ。「急にいなくならないこと、隣人とトラブルを起こさないこと」などが盛り込まれた誓約書にサインをもらった上で、保証人となる。借りるアパートについて、劣悪なものではないか、環境や日当たりなども相談者に念入りに質問する。
 すぐに解決できそうにない問題を抱える相談者の話にも、親身に耳を傾ける。多くの相談者が、「生きるのがつらい」などと気弱な言葉を口にするが、ここへ相談に来て親身に話を聞いてもらい、何らかの解決への方向が見えると、来たときよりいくらか明るい表情で帰って行く。
 長年炊き出しの場所での相談が中心であった。多くのホームレスは、その日の食事、寝る場所、仕事を確保しなければならないため、炊き出しの現場の方が多くの人に出会えるからだ。しかしじっくり相談を受けるには不向きなので、5年ほど前から事務所での相談も行うことになった。
 今後は、アパートに入って野宿から脱却できた人たちに対しても、支援を始める予定だ。アパートに入居してその後どのような生活をしているかを調査し、実情や要望に合った支援を検討する。アパートに入ったが仕事が見つからない人もいるし、健康上の問題を抱えている人もいる。それらの人たちの支援も続けていく。

状況を変えることが目的
 このような個人の相談を受ける一方で、本来の目的である状況を変えるための活動も行っている。生活保護※の不当・違法な拒否や、退院後も生活保護が必要なのに打ち切られて再び野宿になるような現状を改善すること、福祉事務所から紹介される病院の質の改善など、ホームレス個人の力ではとうてい及ばない問題の解決に向けて動く。
 診療所の設立から18年、それ以前の活動を含めると実に30年近くにわたり、ホームレス問題を社会問題のひとつととらえ、真剣に取り組んできた藤井さんたち。これらの功績により、名古屋弁護士会から、1997年には藤井さんが、2003年にはボランティアで無料診察を行っている医師3名が人権賞を受賞している。それでも、藤井さんは、「今も偏見は強く、公園などから排除をする動きが続く。20年前から状況がなにも変わっていないのではないかと思うこともある」と言う。それだけこの問題が多くの課題をはらんでいると言えるだろう。これからも藤井さんたちの戦いは続きそうだ。

※ 求職努力をしているにもかかわらず仕事がない者も、健康に著しい問題がないという理由で労働能力ありと見なされ、生活保護が受けられないケースが多かった。これは生活保護法に反する運用だと裁判も行い、その成果で、最近は改善されてきている。しかし福祉事務所の現場では、まだ担当者レベルでの対応の相違も見られるという。
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