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12月特集記事「人と人との関係も、かけがえのない“作品”。」 ページ2
 
ボランティアは、“山の広場”の宝物。
 野外劇場の全体の計画には、山の斜面を利用する客席の製作も大きな仕事として残っているが、一番の難関はやはり粘土を積み上げて造った音響壁を焼くことだ。2メートルの高さに積み上げた音響壁は、今年中には成形を終え、来年1年で乾燥、さらに再来年には何万もの耐火レンガで組み立てた炉で焼成する予定になっている。聞けば陶土に詳しい夫妻でも、「こんなに大きな作品を焼くという例は聞いたことがないし、成功するかどうか焼いてみないとわからない」のだという。それでも、結果が未知だからこそ楽しくて、誰も保証できない成功を「見届けたい」という想いこそが、人々を駆り立てているのだろう。
 作業がひと段落したところでスティーブンさんに話を聞いた。「日本は便利になりすぎて、手作りのものは少なくなって、体をめいっぱい動かしたり自然と戯れるチャンスも減っちゃった。でも、人間って、本当はそういうものを求めているんじゃないかな。ここには便利なものなんて何一つなくて、自分たちが手をかけないとどうにもならないことばかり。だから、みんなが吸い寄せられてくるのかも。自然に囲まれた環境で一日一生懸命汗を流して働くと本当に気持ちがいいしね。ただ、始めたときはこんなにもたくさんの人が集まって、こんなにも力を貸してくれるなんて想像もしないことだった。だから、ボランティアは宝だと思っている。彼らがいなかったらここまでやれなかったから」。早めに引き上げて帰っていく人に「お疲れさま」の言葉をかけながら、スティーブンさんはさらに語ってくれた。「いつからか、土の作品よりもここで生まれた人と人との関係が、本当の作品だと思うようになった。劇場づくりは、完成したら形を残してそれで終わってしまうけど、みんなの関係はそれからも続く。形のないこの作品も、ちゃんと残していきたいと思うんだ」。
 すっかり陽の落ちた夕方。最後に全員で円になって一本締めをすると、汗と土にまみれた一日の作業がやっと終わる。「さあ、来週もがんばろう」。缶ジュースでのどを潤しながら互いにねぎらいあう人々の表情には、疲労感以上に達成感と晴れやかさがあった。
 
テントに覆われた音響壁の作業場
テントに覆われた音響壁の作業場
作業の終わりを一本じめで締めくくっている様子
作業の終わりは一本じめで締めくくる
 
 
野外劇場“山の広場”プロジェクト
   「人々が集い、自然と一体になれる空間」としてスティーブンさん&ヒメナさんの陶芸家夫妻が3年前に立案したプロジェクト。友人の杉浦氏に土地を提供してもらい、2002年夏から愛知県美浜町布土の現場での作業が開始、基礎ブロックやコンクリおよびレンガの基礎製作、足場の組み立てなどが行われました。2002年秋からはプロジェクトのメインになる音響壁(高2・5m、幅7.5メートル)の粘土積み上げ作業が本格化、現在まで進行中です。今後2004年には粘土の乾燥、さらに2005年に耐火レンガで組み立てた炉で2〜3週間かけて音響壁を焼成する計画です。一方、山の斜面を利用して作る客席は活動に参加したボランティアの人がデザインした100枚のタイルを敷き詰める予定になっています。
 現在プロジェクトでは、音響壁の粘土を焼くのに使用する数万個の耐火レンガを集めています。譲ってくださるという方、不用品レンガの情報をお持ちの方はぜひご連絡ください。また製作活動に興味がある人、体力に自信のある人のボランティア参加もお待ちしています。
 
 
スティーブン・ウォードさん
スティーブン・ウォードさん
ヒメナ・エルゲダさんと長男の空くん
ヒメナ・エルゲダさんと長男の空くん
 
Information
●プロジェクト連絡先
スティーブン&ヒメナ
TEL: 0569ー37ー1227
Eメール: fuego@d8.dion.ne.jp
●紹介ホームページ
http://members.at.infoseek.co.jp/mugenan/mg2/bk.htm
 
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